嗚呼アザレアが鳴いている




目が覚めると、随分日が高いなと思った。ちらりと時計を見ればいつもの休みよりも2時間ほど多く寝てたらしい。とくに夜更かししたでもないのになんでだろう。それでも寝過ごした、なんて気持ちにならないくらい気持ちよく寝てた。それでも、いくらなんでも起きよう。日が昇りすぎてこのまま布団にくるまっているには若干暑い。今、起きるのが本当にベストってタイミングで目が覚めたようで気分がいい。
まだ頭がしっかり働かないまま適当に着替えて部屋を出る。珍しく、コーヒーのいい香りがした。

「お!やっと起きたか!」
「はよ。珍しいね、とっくに出掛けてるかと思った」
「たまにはな!」

部屋でじっとしているイメージがあまりにもないから、こうしてコーヒーをいれながら自分を出迎えるナランチャが新鮮でまた気分がよくなる。なんだかいい日になりそうだ。

「ん」
「?」

そんなことを思っていたらおもむろに差し出されるマグ。

「あっま〜〜いカフェラテだ。俺でも飲まないくらい甘くしてやったからな」
「ナランチャがいれてくれたの?」
「俺以外いないだろ!」

これはまたびっくり。ナランチャはいつも色々とお世話される側だからこんなことしてくれるなんて思わなかった。まだぽやぽやした頭にこんなハッピーが続くと今日はウルトラハッピーデーな気がする、なんてお気楽な思考回路がめぐる。どんどんめぐってしまえ。

「ふふ、甘くておいしい」
「へへ!」

ナランチャの言う通りこれでもかというくらいあまい。おかげで目が覚めてきた。素直にお礼を言えば、得意げに笑うナランチャがかわいくてまた頬が緩んでしまう。

「ねぇ、ナランチャ。今日は予定ないの?」
「あぁ!名前と昼飯に行きてぇと思ってさ!近くに新しい店が出来たから行こうぜ!」
「あ、もしかしてスペイン料理の店?私も行きたいと思ってた!」
「んじゃあ、それ飲んだらさっさと支度しろよな」
「はーい」

あー、嬉しいなぁ。ナランチャは新しいお店見て私と行きたいって思ってくれたんだなー、なんてまた気持ちがぽかぽかした。目が覚めてきたっていうのに今日はどうやら1日頭がお花畑になってそうだ。なんか、どうにもそういうテンションの日ってある。そういう日なんだ。








名前が全然起きてこない。今日は近所にできた新しい店に一緒に行きてぇんだけどなァ。まさか具合悪いとかじゃあねぇだろうな。そう思ってそっと名前の部屋のドアを開ける。耳をすませば規則正しい寝息が聞こえてきて、具合悪そうな感じはしねぇ。そっと足音を殺してもう少しベットに近づく。布団に埋もれるようにスヤスヤ寝てる名前はいつもより幼く見えてなんとなく優越感に浸る。まだ寝かせといてやるかって、寝坊助を多めに見てやるのはちょっと自分の方が大人びたように感じてこそばゆい。調子に乗ってわざとリップ音を鳴らして額にキスしてみても名前は身動きせずに寝てやがる。でもなんか、こうイタズラが成功したようなそんな気持ちだ。また同じように足音を立てないようにそっと部屋を出た。今日は俺の方が年上になったみてぇだ。しょうがねぇから名前が好きなくそ甘いカフェラテでもいれといてやるか。