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それは遡ること5年前、初めてホグワーツ城に入り右も左も分からないまま、飛び込んでくる情報量が多すぎて興奮のあまり熱でも出すんじゃないかと、当時の自分の様子を見たら思うだろう。私がレギュラスと出会ったのは入学式を終えて、通常に授業が始まって少し経ってからのことだった。




ひぃ〜〜〜前の授業の提出レポートが見つからなくて探してたら遅くなっちゃった。絶対やったからあるはずなのに、ほかの教科書に挟まってるってどういうことなの!まぁちゃんと出せてよかったけど!

バタバタと走りながら次の授業である、魔法薬学の教室へ急ぐ。魔法薬学は教科書以外にも必要な持ち物があるからどうしてももたついてしまう。ほかの生徒はとっくに教室に入っているようで、周辺には授業がないと思われる上級生の姿がちらほら見えるだけだ。あわてて教室に駆け込んだはいいが、ほとんど席がうまってしまっている。仲のいい子の席は定員オーバーのようなので、渋々唯一空いている前方の席に向かった。

「あの、隣いい?」

「どうぞ」

そこにいたのは、レギュラス・ブラックだ。名前は話したことはないが有名なブラック家なので名前と顔は一致している。よく聞く名前ではあるが、入学してからというもの兄のシリウスの名前の方がよっぽど聞くので、彼の印象は薄れがちだ。シリウスが目立ちすぎってことはあるが。

まだ慣れない1年生のためなのか、名前がそこそこ優秀なのかわからないところだが、魔法薬学の授業はなんなく終わり本日の授業は全て終了した。名前が友達とだべりに行こうかなと思った矢先、

「苗字、ブラック、すまないが少し手伝ってくれないか」

「構いませんよ」
「え、あ、う」

もちろん嫌だった。でも、咄嗟のことで、ブラックは二言返事だったし、いい言い訳も思いつかず悲しくも先生の手伝いをする羽目になった。友達は、夕飯は一緒に食べよーと元気に手を振っていってしまう。

先生の手伝いというのは、なんでか知らないが魔法薬学の教室に大量にあるいろんな本を教授の部屋に運び込んで欲しいというものだった。それも、ご丁寧に付箋がついてるものだけ分別して。落とすと悪いから浮遊魔法は使うなと言われた。

「浮遊魔法は使ってもよくない?」

「同感」

理不尽に手伝いを押し付けられて、名前は本来人見知り気質であることも忘れるほど苛立ちを覚えていた。そんな名前とは裏腹にブラックは、やれやれとため息をつきながらも大人しく作業を黙々と進めていく。

「なんで私たち名指しされたの?誰でもよくない?」

「誰でもいいから一番前にいた俺たちに頼んだんだろ」

「ぐ、」

反論できない。つまり、私の本日の運の悪さは提出レポートが見つからないところからずっと連鎖しているということか、と項垂れる。

「よし、とりあえず付箋のものは分け終わったからとっとと運んでしまおう」

「男子に頼んだ方が絶対よかったよね」

「1年で男も女もなくないか?」

「ぐ、」

たしかに、ブラックと名前もさほど身長は変わらない。どうにもタダ働きしているのが腑に落ちなくて文句が止まらないでいた。

「ブラックは文句1つ零さず偉いね」

「ま、先生の前でいいこちゃんするにこしたことはないからな」

「……なんか、思ったより、かたっくるしい感じじゃないんだね」

ぽろっと本音が出てしまった。由緒正しきブラック家の人間だと思うとどうしても頭の固いイメージであったり、自分のような庶民とは話をしない、とまでは言わないがそんなテンプレ貴族なイメージを持っていたのだ。

名前の言葉に、ブラックは手を止めてこちらを見る。にやり、と笑ってから

「ミス苗字、女性にこれ以上お手伝いさせるのも気が引けます。あとはほかの男子生徒にお願いしますから、君は寮に戻るといい」

「え」

「君と話をするのは初めてでしたが、こんな機会を与えてくれた先生には感謝しなければ。ぜひ次はゆっくりお茶でもしましょう」

「ちょ」

それからにっこり。態度の急変にびっくりして目を白黒させていると、

「どう?こっちは社交モードのレギュラス・ブラック。こっちの方が好み?」

またにっこり。

「い、いえ…………普段通りでいいです」

なんというか、ドキドキするというよりは、同い年のブラックが社交の場にいることを実感して、そのことに違う世界の人だ、という気持ちが増して緊張感が増してしまった。そのあとはもくもくと教室と教授の部屋を往復したことを覚えている。