静かに恋をするのです


ガタガタガタ………………

鈍い音、脳髄まで響くような振動、凝り固まった体、あぁ、そうだ。そういえば、私は、

「悪ィ、起きたか?」

「ううん、寝ちゃってごめん」

目の前はまだ薄暗い景色。横には先ほど声を掛けてくれたホルマジオ。そうだ、無事に任務を終えて帰路についているところだ。珍しく遠出しているので、任務も終えた今、ちょっとした小旅行気分に切り替わりつつある。深夜に仕事を終えてからの今だから、小旅行というよりは朝帰りなテンションに近いものがあるけど。

「こっからだいぶ道が悪そうだ。しばらく揺れるわ」

「そっか、運転ありがと。替わろうか?」

「せめてもっとマシな道になったら頼むな」

特別運転に自信がないってほどでもないけど、そこはホルマジオも気を遣ってくれたのかもしれない。でも、私としてはこんなに道が悪いのに全然スピードを落とさずに爆走してるホルマジオの運転の方が不安ってところもあるんだけど。ずっと運転しっぱなしなのに、気前よくそう言ってくれるホルマジオに悪くて、それ以上は言いづらい。せめて酔わないようにしよう、と思いつつどうしようもないのでまた寝てた方がよっぽどいいのでは?

「ホルマジオ〜、アジトに直帰しないで途中でどっか休憩しようね。朝はカフェに寄りたいし、またちょっとしたらジェラートとか食べながら帰りたい」

「だな〜。本当は今日1日かかる予定だったもんな。寄り道してもバレねぇだろ」

「やった〜」

ホルマジオとはこうしてだらだら時間を過ごせるから好きだ。気を張らなくて済むし、かと言って仕事になったらきっちりやる。今回も本当は下見に時間をかける予定だったけど、予想外に暗殺チャンスが到来。2人とも今しかないということで意見が合致し、あっさりきっちりお仕事完了というところだ。なんというか、波長が合うんだろうな。

それからしばらく本当にひどい道を、ホルマジオの容赦ないスピードで進み、いよいよ気持ち悪くなりそうになってきたところ、

「もう少しすると海岸線に出るはずだぜ」

との朗報。

「まじか、もしかして日の出見れるかな?」

「アドリア海側だからな!間に合わせるか!」

「………」

ホルマジオはさらにアクセルを踏み込んでしまった。私がうんともすんとも言わなかったのは、激しくなったエンジン音とガタガタと舗装もまともにされてない道を進む音で気づかれなかったらしい。

海岸に出るのと、私がゲロを吐くのとどっちが早いかの問題だったけど無事にゲロを吐かずに着くことができた。しかもまだ日は昇っていない!いや、これで昇りきってました、じゃ私の我慢はなんだったのかってなっちゃうところだったんだけど!

「間に合ったな!」

「う、うん」

「お前、顔真っ青じゃあねぇか!」

「いや、普通なるでしょあんな運転」

「言えよ!」

「もう言い出せなかったよ!日の出見たかったし!」

この任務何度目かの、しょ〜がねぇなぁを頂戴し、とりあえず車を降りる。別にビーチでもなんでもなく、あたりに店もないようなところだからか、見晴らしはいいものの、人っ子一人見当たらない。

「まだ肌寒いね」

「いるか?」

「ホルマジオから上着とったらほぼ上、裸じゃん」

「好意は素直に受け取った方がかわいいぜ」

「むしろ私からの善意なんですけど。風邪引くよ?」

とは言いながらも無理矢理上着を掛けてくるあたり優しい兄貴分なのだ。まぁ、見ていて寒いのでぶっちゃけ上着は返したいんだけど。

「おら、もう日が昇るぜ」

「ほんとだ」


ティレニア海側は夕日が綺麗だけど、こうして日の出の海を眺める機会がないので、ちょっぴり気分が上がる。爽やかだ。車で寝てたせいで体が痛いのが残念だけど。

「うし、行くか」

「え、はや。もう少し余韻に浸りたい」


「腹減ったし、俺も眠ぃんだよ。運転替わってくれ」

「はいはい」

ホルマジオの真似をして、しょ〜がねぇなって続ければ頭をわしわし撫でられて髪の毛がぐしゃぐしゃになった。

まだまだプチ旅行は始まったばかり!