レモングラス


よく晴れた夏空。照りつける日差しは強く、少し外を歩いただけでじんわりと汗が滲む。部活が休みだから、と久しぶりに高尾とデートなんだけどこうも暑いとげんなりしてしまう。少し前に始まった映画が見たくて前から行こう行こうと話していたから、夕方より少し前のチケットを押さえてそれまで時間をつぶすことにした。人気作品ということもあって1番近い時間のものは良い席がだいぶ埋まっちゃっていたから。

「高尾ー暑いよー」

「苗字が適当にぶらぶらしたいって言ったんでしょーが」

「うぅ、だって映画見たかったから他に何かしようとか考えてなくって」

「じゃあ、適当に店入って時間潰そうぜ。で、どっか行きたくなったら出ればいいじゃん?」

「そうしよっか」

というわけで近くにあったお店に避難。想ったよりお洒落な雰囲気で、中にいるお客さんも綺麗なお姉さんたちが多いような気がする。

「何にするか決めた?」

「あー、なんでもいいや。冷たいもんなら。コーヒーでいっかな」

注文も済ませるとすぐに飲み物が運ばれてきた。高尾はコーヒーで私はレモングラスティー。

「それうまいの?」

「うん、すっきりしててアイスにしてると夏にぴったり」

「お前、販促してるみてぇ」

はは、と少し笑ってちょーだい、と手を伸ばしてきた。代わりにと差し出されたコーヒーはシロップもミルクも入ってるのに苦く感じてまだまだコーヒーは飲めないなぁ、と考える。

「あ!いける!うまい!」

「あ、高尾ハーブ系いけるんだ」

「よくわかんねぇけど、これはうまい!」

「これはうまい、わかる。私もローズヒップとか苦手だったりするんだよねぇ」

わいわいと思わず盛り上がってしまて、あ、うるさいかなと辺りを見回してみるけど別段誰かが気にしている様子もなかった。居心地がいいなぁ、このお店。

「ちょっと高尾!飲みすぎ!」

「コーヒー飲んでいいから」

「私がコーヒー好きじゃないの知ってるでしょ!」

「そうだったっけ?」

「もう!」

結局、少なくとも1/3は高尾に飲まれてしまった…!映画館でポップコーン奢ってやるから、というので許したけどポップコーンだけでは結局喉がかわくからドリンクも奢らせよう。どうせポップコーンだって買ったはいいけど高尾ばっかり食べるに決まってる。

「明日も部活?」

「おー」

「体育館暑そうだね」

「サウナだかんなー」

「頑張るねぇ」

「まぁな」

「そうやって高尾が頑張ってバスケしてるとこ、好きだよ」

「…ゲフッ、ゴホッ」

「ふふん」

いつもお調子者で友達みたいなノリで付き合っているけど、案外高尾は純情少年だということは、たぶん私しか知らない。たまにこうしてふい打ちを突かれるのが1番弱いのだ。コーヒーが器官に入ったみたいでゲホゲホやっている高尾に水を手渡した。

「耳が赤いよ、和成君」

「調子乗んなよ、名前ちゃん」

恋人にあるまじき臨戦態勢みたいな空気が流れているけど、私はこれで幸せなのです。



------------------------------------

あまりハーブティー飲まないんですけど先日飲んだレモンとジンジャーのがおいしかったです。ジンジャーが効いていたのでミルクといれるとチャイっぽくて体が温まりました。レモングラス系のものはさっぱりしていてアイスにするのが1番だと思います!