▼ ダージリン
テストの得意科目であんまりいい点がとれなかった。
予習したのにノートを忘れて、先生にあてられて答えられなくて怒られた。
乗るつもりだった電車に乗り遅れて10分ホームで待ちぼうけくらった。
映画の割引券失くした。
なんとなく、そんな嫌なことばっかり続いててへこたれてしまっていた。3日くらい何もしないで何も考えずにぼーっとしてたい。そんな風に思った。だから、なんとなく由孝さんとのデートも気乗りしなくて本当は断ろうかと思ったくらい。でもやっぱり由孝さんに会いたくて断るなんてできなかった。
「やっぱ俺ん家でDVD見よう」
「え?」
由孝さんが見たいって言ってた映画を見に行こうってことで今日会うことにしてたのに、出会い頭に言われたのがこれだった。え、どうしたんだろう。見たくなくなったのかな。でもDVDは見るの?訳が分からないけど、由孝さんがやけに笑顔で言うものだからそれに従う。由孝さんの家まで待ち合わせた駅から3つ先、歩いて20分。家までの通りにレンタルビデオの店があるからそこで見るDVDを借りていく。
由孝さんにしては静かなヒューマンドラマだった。だけどそこまで泣けるってわけでもなくつまらないわけでもなく、なんとなくじーんとする感じ。うん、わりと好きだったかも。いつもはEDロールまでしっかり見る由孝さんが急に立ってどこかに行ってしまう。トイレかな。
「はい」
ちょうど、EDが終わってタイトル画面に戻ったところだった。
「…ありがとうございます」
「ちょっと熱過ぎたかも。火傷しないようにね」
「はい」
急に部屋を出て行ったのは紅茶をいれにいってたみたい。由孝さんの家にくるといつも紅茶をいれてくれる。お母さんが好きで大量にあるからって言ってた。由孝さんも頻繁に飲むって言ってたからか、出される紅茶はいつもとてもおいしい。
「おいしい…!」
「これはダージリンだよ」
「へぇ…!」
出された中で1番好きかも…!単純なんだけど、それだけでなんだかほっこり嬉しくなった。ふと、顔をあげれば由孝さんがじっとこっちを見てる。
「え、どうしたんですか?」
「んー…、なんか元気なかったからさ」
「……」
「家でゆっくりした方が落ちつくかなって思ってさ」
どう?正解でしょ、と言って由孝さんは優しく頭を撫でてくれる。そうか、だから今日はあんなヒューマンドラマだったんだ。せっかくの部活オフの日だったのに、私なんかのために気を遣わせてしまったのかと思うとすごく申し訳ないのに、そんな由孝さんが愛しくて仕方がない。だめな彼女だ。
どうしてもネガティブ思考になってしまって、膝をかかえてぎゅっと丸くなる。
「えっ!?嘘、だめだった!?ごめん!」
「違います……由孝さんが優しいから……」
膝を抱えているせいで由孝さんの顔は見えない。でもまたゆっくり頭を撫でてくれる。
「好きです…由孝さん」
由孝さんには聞こえなかったかもしれない。それくらいぼそぼそとしか言えなかった。でも、聞こえてたみたい。由孝さんは撫でるのをやめてぎゅーって抱きしめてくれた。ほんと、由孝さん大好き。