君は近くにいてくれるのかい



ふと、目が覚める。時刻を見れば午前9:26。とくに遅くもなく早くもなく程よい時間。今日は確か夕方から仕事が1件入っていたがそれまでは特に予定もない。もう一眠りするかと、1度寝返りを打とうとした。が、できなかった。越しに巻き付く細い腕。ガンッと頭を打たれたような衝撃に耐えつつ恐る恐る視線を下げる。と、そこにいたのは己にぴったりとくっついてすやすやと気持ちよさそうにねむる名前の姿。

いやいやいや、まてまてまて、なんでこいつがここにいんだ?あ?ふざけんなよ、昨日は暑くてなにもする気が起きねぇからさっさと寝たんだ。こいつは………知らねぇ。あんまり眼中にいれてなかったはずだよなぁ?それくらいなにもなかった。あぁ、なんかアイスを食ってた気がするがそんなことは関係ねぇ。

混乱のあまり動くことができず固まって昨日の自分を振り返ってみるがやましいことは何もない。気が動転したが、そもそもお互いきちんと服も着ているし、たぶん、きっと、恐らく、名前がギアッチョの部屋に侵入してきたと思われる。ではなぜ。

考えてもわからないのだから、名前を起こすしかない。

「オイ、起きろ!なんでテメーが俺の部屋にいんだ、クソが!」

ベシベシと遠慮なく頬を叩けば煩わしそうに名前は顔を顰める。んーっと唸る声が聞こえるが起きる様子がないため、無理矢理名前を引き剥がして体を揺さぶった。

「あー、おはよーギアッチョ。ごめんね、急にお邪魔して」

「すでにお邪魔した後だろーが!って違ぇ!テメーなにしてんだ!」

なにしれっと、友達の家に朝早く遊びに来た、みたいなノリになってんだとイライラし始める。男の部屋に勝手に転がり込んでおいてこのノリはねーよなぁ?ふざけてんのか、と。とりあえずどうしてこんなことになってるのか聞き出すためにもキレるのは堪える。寝起きで血圧が上りきってないからなんとかなったのだと思う。

「いや、実は昨日の夜、電気止まったんだよ」

「は?」

「エアコンがつかないから死にそうになってさ」

「いや、待てよ電気がとまった?どういうことだ?」

「大丈夫大丈夫、料金滞納とかじゃないよ?普通に故障?みたい。電柱がどうのとか言ってたからもしかして誰かが近くで戦ってぶっ壊したのかも、みたいになったんだけど、とにかく真夜中でさっさと寝たいし状況確認はリーダーに任せて私は寝ちゃった」

もし電柱なら近所一体困ってるだろうし、早めになんとかなるんじゃないかなーと呑気なことを言っている名前。そこからなんでギアッチョの部屋にいるのか合点がいかないが、ぽかんとしているギアッチョを見て名前は続けた。

「でね、エアコン効かないからアジトにいたほかの面々は起きてくるわけよ。で、みんな散り散りに出てったのね。涼を求めて。私はわざわざ深夜にホテルに乗り込むのもめんどうだなって思ってたら、ギアッチョが起きてこないことに気づいたのね」

ここで、あ、と気づく。今の今まで気づかなかったのもおかしいが状況が状況だ。気が動転していたのだ、仕方ないと急に自分への言い訳を頭が駆け巡る。

「で、ギアッチョの部屋を覗きにきたら、絶妙に快適空間が広がってたのよ。寝てて無意識にスタンド発動してたんだね!もうあまりにも快適だし、ほんともう寝たくて仕方なくてそのまま寝ちゃった」

てへぺろっとでも言いたげなノリな上に出来もしないウインクをしたのに腹が立ったので図上からチョップをお見舞した。

「にしてもよォ、んな引っ付かなくてもいいだろ。この部屋我ながらめちゃくちゃ快適だしよォ」

「うわ、ギアッチョ自覚ないんだ。ギアッチョ自身が冷たくてめちゃくちゃ気持ちいいよ。夏用の抱き枕みたい」

状況がわかって落ち着いてきたせいか、ぺたぺたとギアッチョの腕を触る名前を急に意識して体温が上がりそうだった。

「電気戻るまでここにいるから!拒否権はないぞ!」

「はぁ〜?この部屋は俺のだぞ?何勝手なこと言ってんだボケナス!」

「メローネの部屋から持ってきたからスマブラしよ!」

「おう」


名前はギアッチョの扱いが上手かった。