ツンデレもクーデレも卒業します。
なななななんで!?今の時間、レギュラスは確実に図書館にいるはずなのに!今日はいつも魔法薬学の授業があって、決まって面倒な宿題が出されたりするから毎週毎週すぐに図書館に籠ってしまうのだ!少なくとも今までは本当にいつもそうだった!珍しく寮にいるときは、少し体調が悪かったとかそういう理由の時のみで私が引きとめなければまっすぐ男子寮に戻る。それなのに、だ!どうして談話室で優雅に紅茶を飲みながら読書に勤しんでいただけでなく、こうして私は腕を掴まれているのだろう!自分の心臓の音がわかがわからないほど大きい。レギュラスが掴んでいる部分がおかしなくらい敏感で、なんかもう腕からでさえも手汗っていうか腕汗?出るんじゃないかってほど。

どうしてここにいるんだろう。私の避け方は完璧だったはずなのに。

「なまえ先輩」

しばらく黙っていたけれど、呼びかけられてしまってついびくっと体を揺らしてしまう。あーレギュラスに名前を呼ばれるのも久しぶりだ。やっぱり好きだ。そう、好きなのだ。私はレギュラスのことが好きで好きで、一人の女の子として好きで、そんなの柄じゃないこともわかっていて、レギュラスには嫌いみたいなこと言われて、もう、どうしたらいいのか分からなくなっていたのだ。

そう考えてきたら、またあの羽ペンをいじっていた時みたいに気がつかないうちに涙が出ていた。ぽたっと落ちたのが自分でもわかった。ただこの位置からではレギュラスには見えないだろう。なんとかしなくては。

「なまえ、先輩」

「ひっ」

自分のことで必死になっていると、急に耳の傍でレギュラスの声がする。腕だけが掴まれていた距離はいつの間にか縮まっていてすぐ後ろにレギュラスがいることを感じる。ほんとに、わけがわからない…!

「どうして僕を避けるんですか」

「………」

「僕の言ったこと、気にしてるんですか」

「………」

「嫌いになった?」

「そんなことない!」

思わず振り向いてしまった。まだ涙は止まっていなくてぼろぼろこぼれたままで、そのせいか声も若干裏返ってしまって、しかも振り返ってみると予想以上にレギュラスが近くて、慌てて俯いてしまった。それでも急に大きな声を出したせいか私の口は止まらず、わんわんと巻くしたてる。

「私は、レギュラスが大好きだよ!」

「………」

「好きで好きでしょうがなくて、でもレギュラスは嫌でしょう?もう、どうしたらいいか分からなくて。ねぇ、どうしたらいいの?どうしたらレギュラスは私のことを好きになってくれる?」

馬鹿みたいだと思った。どこのB級映画のくそ女かと。だいたい主演男優に良い寄る女がこんな感じのことを言って、「君じゃだめなんだ、彼女じゃなきゃ」とか言われてそのシーンは絶対どしゃ降りの雨の中だったりするんだ。言い切ってしまってまた後悔が押し寄せて本当に逃げてしまいたくてぐいっと腕を引っ張ってみるんだけど、やっぱりレギュラスは離してくれない。嫌いなのなら、迷惑なのなら放っておいてくれればいいのに。

「貴女は本当に馬鹿ですね」

くすくすと笑うレギュラスが少し前の日常を思いさせてつい、顔を上げる。しっかりと見てみればやっぱりいつも通り穏やかに笑っていてでも目だけがらしくもなくギラギラとしていた。やばい、かっこいい。

「僕が嫌いな女性の為に紅茶を用意すると思いますか」

もう俯かせてなどやらないというようにレギュラスがもう片方の手で私の頬を掴む。

「迷惑だと思う女性と毎朝毎朝朝食をとると思ってるんですか」

「好きでもない人と談話室で時間を過ごすと思っていたんですか」

掴まれていた腕が離されて、そのまま指と指が絡められる。意味が、わからない。

「僕は、とっくに貴女のことが好きなんですよ。馬鹿な人だ。」

ぽかん、とだらしなく口を開けて穴が開くほどレギュラスを見つめる。ようやく彼が言ったことを理解した私はまたどうにもならない涙がぼろぼろとこぼれ始めてしまった。

「うぇ…っ、じゃあ、なんで…あ、んなこと、言っ……!」

「あぁ、行動をよく振り返ってくださいって?今言ったじゃないですか」

「ふぇ?」

「好きな人じゃなければ何年も一緒にいませんよ」

なんでレギュラスこんなにデレてるの?これあれじゃん、ツンが10きてデレが10きた気分だよ。ツンの威力が凄かっただけにデレも凄まじいのがきてるってことなの?てゆうかツンデレとかそういう話じゃないよ。

「でも…レギュ、怖かっ、た……」

「すみません。僕のことを思ってあたふたする貴女はかわいくてつい」

にこりと柔らかく微笑んでくれていて、あぁこれ滅多に見せてくれないやつだ!と感動しながらも、レギュラスの言葉をよく考えてみるとそれってすごく意地の悪い発言じゃないか、と顔を顰めてしまう。

「言ったでしょう。いつまでもかわいい後輩ではないって」

「………」



ツンデレ要素もクーデレ要素も兼ね備えていると思っていた後輩は、今日から私のドSな恋人になりました!


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Love like a shadow flies when substance love pursues,
Pursuing that that flies, and flying what pursues.
(The Merry Wives of Windsor / William Shakespeare)