諦念ともいうべき、
カチャカチャと、テーブルマナーもなにもないなまえ先輩は、それでもいつもより大人しく食事をとっていた。普段ならば、逐一僕の皿に手を伸ばして食べかけ何かしら奪っていくのだ。ただの変態でしかない。まぁ、こうして彼女が潮らしく食事をとっているのもついさっき、僕が彼女に脅しまがいのようなことをしたからなんだけれど。

正直、彼女を押さえつけるつもりなんて微塵もなかった。今思ってもなんて野蛮なことを仕出かしたのかとため息をつきたくなる。ただ、常日頃から気掛かりではあった。なまえ先輩は何かしら理由をつけて僕に纏わりついては、セクハラ行為に及んでいるくせに基本的に僕を子供扱いすることに。親からでさえ最近はもうそんな扱いはされない。むしろ社交に出れるよう一個人として扱われているというのに、そう年も変わらない、しかもあんな人に子供扱いされて良い気分なわけがない。


そう、頭の中でぐるぐると考えていた。ちらり、と横に視線を下げればぎくしゃくしながらも皿にパイを積み上げているなまえ先輩と目があう。あわあわと、誤魔化すようにパイを口に放り込んだけど明らかに一口サイズではないものだったために、案の定ゲホゲホとむせ返っている。かわいそうだと思い、差し出したかぼちゃジュースでさらにむせていた。

「…………大丈夫ですか?」

「…だ、だいじょ、…ゲホッ、グ……ゴホッゴホッ………」

「仕方ないですねぇ」

そのままゲホゲホと、咳き込み、続けているので、一度ナプキンで手を吹いて彼女の背中を擦ってやる。


「むせながらにやけないで下さい」

「だって、…ゲホッ…レギュが…心配してくれてると、…思うと…ゴホッゴホッ、ゲホッ」

「音が不愉快なだけです。さっさと止めて下さい」


頭ではわかっているのに、こんな阿呆でどうしようもない人。



それなのに、彼女を愛しいだなんて。


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Love like a shadow flies when substance love pursues,
Pursuing that that flies, and flying what pursues.
(The Merry Wives of Windsor / William Shakespeare)