「お義兄さんって…何言ってんだお前…」
「私、レギュラスの恋人なんで…ぶほぉあっ!」
にっこりと笑って話していたはずのなまえは飛んでいった。吹っ飛んだ。
「レギュ…愛が重いよ…」
「起きたまま寝言が言えるなんて器用なんですね」
俺の目に狂いがなければ、あのレギュラスが(仮にも)女に渾身のアッパーをくらわせていた。あいつは殴るよりも口でねちねち言う方が多い。そんな奴にあそこまでさせるなんてなまえって一体…。って、違う!そもそもなんでそう簡単にスリザリンの奴らが…あぁ…レギュラスに脅されたと思われるグリフィンドールのやつらが隅で申し訳なさそうにしてやがる。
「何してるんですか、貴女は…」
「何ってもちろん、シリウスさんに挨拶だよ!」
「シリウスさんとか…気持ち悪いですね」
「おい!」
年を追うごとにレギュラスが嫌な奴になっていく。なんだ、あいつむかつく…。まぁそれは置いておいて…。あいつだ、なまえ。レギュラスの恋人とか言い出すから、一瞬趣味を疑ったが、どうやら違うみたいだ。うん、良かった。
「ほら、さっさと戻りますよ」
「えぇ、まだお茶菓子も出てないのに」
「これ以上、スリザリンの恥を曝さないでください」
「それって、グリフィンドールなんかに行って僕に心配かけないでくださいって意味?」
「なんておめでたい脳みそ持ってるんですか」
なんかってなんだ、なんかって。それにしてもレギュラスがやけに饒舌だ。まぁ、俺ら仲悪いから尚更なのかもしんねぇけど。……あぁ、もしかして、そういうこと、か?いっちょ、鎌かけてみるか。
「せっかく来たんだからゆっくりしていけよ」
「ほら、シリウスさんもこう言ってる!」
ついでにポンとなまえの頭に手を乗せる。…おいおい、レギュラスってこんな分かりやすかったか?思いっきり顔歪んでるぞ。やべ、なんか面白くなってきた。
「女に手上げたらだめだろ」
「あんたには関係ない」
「顎大丈夫か?」
「え、うぁ」
それにしてもよくあのアッパーをくらって平気でいられるな。舌噛んでたら参事だったな…。くい、と顎を持ち上げると心配した風に顔を近づける。
「なぁ、あんな糞ガキなんかやめて俺にしねぇ?」
耳元で囁けば、普通の女なら一発で…
「うああああああああああああ」
「っが!?」
「レギュウウウウウウウウウウ!」
「!?」
……あんの女!よりにもよってアッパーしやがって…!し、舌噛んだ…。綺麗に俺の顎にアッパーをくらわせた挙句突き飛ばし思いっきりレギュラスに飛びついていきやがった。意味が分からない。なんだあいつ。どうしてこうなった…!?
「お義兄さんといえど我慢ならん!つうかレギュラスが糞ガキとか馬鹿なの?死ぬの?ふざけないでくれるかな?そもそも同い年だから敬語とか使う必要とかナインデスヨネ!レギュ、あの人だめだ手遅れ」
「そんなこと分かってますよ」
「もうこれからはシリウスさん(笑)って呼ぶことにするよ。うっわ、まじ鳥肌たった。びっくりした」
「もう気が済みましたか?帰りますよ」
「うん!」
「…………」
お騒がせしました、とリーマスとか他の奴らに向かって軽く会釈をしてレギュラスたちは入り口へ向かう。(もちろんその会釈は俺に向かってではない)そして去り際にレギュラスが振り返る。
(ざ ま あ み ろ)
「んな!?」
口パクだった。だけどはっきり分かる。あの人を馬鹿にしたような顔であの口パクで他の台詞なわけがない!文句の1つを言おうにもすでに扉がパタン、と閉まる音だけが響いた。
ぽお、と肩に手が置かれる。
「どんまい」
リーマス、なんでそうもにこにこしていやがる。言葉と顔の表情があっていないんだが。
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シリウス…ごめん(笑)
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Love like a shadow flies when substance love pursues,
Pursuing that that flies, and flying what pursues.
(The Merry Wives of Windsor / William Shakespeare)