じりじりと茹だる様な暑さが肌を焼く。もう夏も終わりだと言うのに気温は未だに30度を前後している。最近の残暑は少しばかり厳しすぎるんじゃないだろうか。額に滲んだ汗を拭いながら顔を上に向けた。…――ぐらり、突然視界が揺れた。目の前が真っ白になり身体が傾いて倒れそうになる。ヤバい、これは熱中症かもしれない。目の前がちかちかして頭もぐらぐらする。覚束ない足取りで近くにあった木の影に座り込んだ。額に手を当てて息を吸って、吐く。痛む頭を押さえて目を閉じると意識がすうと遠くなった。 最初に感じたのはふわふわとした宙に浮いているような浮遊感だった。この感覚は多分夢を見ているのだろう。なんだか身体が暖かい。 「起きたか」 「エリオット、くん…?」 聞こえてきたのは一人のクラスメイトの声だった。それからああ、やっぱりこれは夢なんだと確信する。だってエリオットくんがこんな場所にいるはずがない。今は授業中で、わたしはそれをサボっていて。だから授業を普通に受けている筈のエリオットくんがいるなんてあり得ない。そうか、夢か。夢でエリオットくんが出てくるなんてわたしはどれだけ…いや、なんでもない。だけど夢なら 「熱中症だ。気分はどうだ?」 「大丈夫。…あのね、」 「なんだよ」 「わたしね、エリオットくんをずっと見てたんだ」 口が、口だけが意思を持ったように言葉を紡ぐ。 エリオットくんの中では、わたしはただのクラスメイトでしかなかったと思うけど。わたしはエリオットくんをずうっと見てた。リーオくんと仲が良いこと。ピアノが上手なこと。本が好きなこと。ベザリウス家を嫌っていること。短気ではあるけれど本当は優しいこと。それに、隠してはいるけれど猫が大好きなことも。彼の瞳には映らなくても、好きだったから。 「エリオットくんが、好き」 確かめるように繰り返すと、再び意識がすうと遠くなった。夢の中にいても意識を失うことなんてあるんだ。きっと次に目覚めたらエリオットくんはもう居ないんだろう。また、彼を遠くから見ているだけの生活に戻る。だからどうか、どうか今だけは…―― この夢だけはぼくのきみでいてよ (これが夢ではないと知るのはもう少しだけ先のこと) 11.10.14 蒼以 曰はく、様へ提出 |