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酸っぱい冗談が本当になった 2

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港から車で数十分行ったところにある、森中の館。
お洒落な造りのそこは、外観に似合わず異様な雰囲気を放っていた。

「こりゃ、ちとマズイな」

先ほどよりもずっと緊張感のある声で彼は言う。
私も、何かおかしな感じがすることは分かっていた。
事前に受けていた情報とは違う。
こんなにも気味の悪い館に、あの老夫婦が住めるとは少し考えにくいのだ。
目配せをして、そうっと玄関扉を開く。
その中は、外装と同じようにとても美しい造りだった。
いや、美しい造りなのだが、やはり入る前から感じていた違和感は正解だったらしい。
ここで一番に私達を出迎えてくれたのは、写真で見たターゲットの夫人だった。
ただ、"出迎える"といっても語弊がある。
そこにいた彼女はすでに生き絶えていたのだ。
赤黒く染まった床は、元の絨毯の色でないことは確かだった。
右腕があらぬ方向へ折れ曲り、死してなお苦悶の表情を浮かべている。
彼女は殺されたのだ、何者かに。
何かわかるかもしれないとその遺体に注意を向けようとした時、北風のように冷ややかな気配を感じた。

「ジャブラ殿」

咄嗟に、向こうで夫人の遺体を眺めていた彼を呼びとめた。
するとあちらもどうやら同じものを感じたらしい。
ピタリと動きを止めて警戒態勢に入った。

「おれは二階を見て回るから、お前さんは下を頼む。何かあったら呼ぶ」
「了解致しました」

▲▽▲

一階フロア、書斎。
背の高い本棚が並び、高価そうな絨毯や壁掛け、小洒落た仕事机が置かれている。
ぐるりと見回れどごく普通の部屋でどうやらここは異常がないようだ。
その隣は寝室だったが、そこも特に問題なし。
先程まわった談話室と思しき部屋も何もなかったから、一階で残すはあと少し。
ヒットは二階だったのかもしれない。
ただジャブラ殿から特に呼びかけは無いようだからあちらも何ら収穫がないのだろうか。
そんなことを考えながら、反対側にあるキッチンの方へと足を向ける。
やたらと大きな長方形の食卓を横目にキッチンへと繋がる扉を開けた。
真っ先に私の目に飛び込んで来たのは、またしても惨状だった。
しかし先ほどの玄関ホールのような惨状とはまた違う。
大型の業務用冷蔵庫は片扉が壊れた状態で開け放たれ、食品や割れて砕けた瓶の残骸がそこら中に散乱している。
食器類やらなにからの全てが棚から軒並み落下したりひっくり返っていて足の踏み場がない。
明らかに何者かが荒らした跡だった。
気配を殺し、慎重に辺りを見回すように部屋の中へ踏み入った。
大丈夫、今ここには誰もいなさそうだ。
何かこうなった原因を探れる痕跡はないだろうかと思い、破片やゴミ屑に注意しながら確認していると明らかにこの場にそぐわしくないものが落ちている。
厨房なのだからナイフや包丁といった刃物は当然あるだろうが、これは流石に料理で使用する道具ではないだろう。
鎖分銅を、まさか肉叩きの代用を目的として厨房に置く変わり者であるならまた話は別になるが。
まあ十中八九、この屋敷への襲撃者が使用していたものだと考えられる。
片側に血がこびりついていて、間の鎖にもやはり同じような赤色が飛び散っていた。
しかし凶器を発見しただけで当の襲撃犯が見つからなければ進展はない。
どうやら本当に一階はハズレであったらしい。
もうこれ以上の発見がないと見切りを付け、私は一度玄関ホールまで戻ることを決めた。
変なものを践まぬように注意を払いながら厨房を出て、数分前に見た長方形の食卓を通り過ぎると玄関ホールに続く扉を開ける。
すると、私が扉を開けた音に被さって何かとても大きな破壊音が聞こえた。
何かがぶつかって壁が壊れた音。
二階からだ。
ジャブラ殿、と呼びかけながら上階へと続く階段を早足で駆け上る。
右階段を上がって、すぐ正面にある最も大きな扉を私が両手でぐいと押し開けた瞬間のことだった。

「おい馬鹿!来るんじゃねェ!!」

耳が痺れるほどの怒号が、部屋いっぱいに満ちる。
それがジャブラ殿の声で、後先を考えず部屋へ飛び込んだ私に対する警戒を呼びかけるものであると気がついた時には、少し遅かった。
大きくて黒い何かがものすごい速さで、部屋の中にようやく入った私に向かって突進してきた、そこまでは見えたのだ。
だが分かっていても対処ができなければ意味がない。
鉄塊をかける暇もなく、ぶつかられた勢いそのままに私は吹き飛んだ。
そうして大変運悪く冷たくて硬い大理石の柱へ、強かに全身を打ち付けることとなった。


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