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酸っぱい冗談が本当になった 1

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先月、長期潜入組が皆それぞれのタイミングでW7へ向かったため、ここ司法の塔はやけに静まり返っていた。
長官殿はあいも変わらず騒がしい方だが、もはや仕方のないことだと諦めている。
特に顕著なのは喧嘩相手のルッチ殿がいなくなったジャブラ殿で、最近は機嫌が良く任務のない時は自室での庭いじりを楽しんでおられた。
愛想の悪い私にも、その点をさして構う事なくごく普通に接してくれる。
懐が広くさっぱりしているからなのか、はたまた逆に私への興味がないのかは分からないが。
仲としては、良くもなく悪くもなくといったところ。
そして今回舞い込んだ任務は、私とそのジャブラ殿で対処することとなったのだ。

▲▽▲

輸送船を現地から少し離れた場所で降り、今は車で移動している。
今回の任務は対象の暗殺だ。
このやけに大きな島の内地の屋敷でひっそりと暮らしている夫婦が今回のターゲットらしい。
なんでも、この夫婦は革命軍幹部と繋がりを持ち、あろうことか住居や資金の提供までも行なっているという。
その情報を掴んだ政府は、革命軍に勢いづかせることが無いように口封じをしようというのだ。
そして彼らに直接手を下すのはジャブラ殿の仕事。
私は、それがより円滑に進むように周辺警戒と彼の援護をするという役割を仰せつかった。
裏でのひっそりとした立ち回りなら、まず私の十八番である。
表立って暴れるよりも、よっぽど

「この夫人なんて、虫も殺せなさそうな顔してるぜ」
「ええ、でも、人は見かけによらないと」

夫婦の写真をぼんやりと眺めていたジャブラ殿が呟いた。
出港前からずっとこのような調子だ。
やる気がないというか、妙に気だるそうというか。
まあ率直に言えば、不思議なことにいつもの覇気が感じられないのだ。
まさか、女性には手を上げない主義なのだろうか。
殺し屋稼業でそんな生ぬるい信条を掲げる人物など聞いた事もないが、もしや。
などと邪推を巡らせていた私を知ってか知らずか、また彼は続けた。

「旦那の方も見てみろよォ、普通の爺さんだ。こりゃ、今回は手応えのねェ殺しになりそうだ……」
「はぁ」
「おめーもそう思うだろ?あーあ、どうせ殺るんならもっと強そうなターゲットが良かったな」

彼はどうやら相手が弱そうだという点に、やる気を見出せないでいるようだ。
なるほど、これは違う意味で殺し屋には向いていないらしい。
以前から、CP9は少々癖の強い人物が多いと聞き及んでいたが皆例に漏れずそうだった。
カリファ殿は大人っぽいがまだ幼い、というか少々抜けている部分があって初々しい。
カク殿は最年少ながらそうとは思えぬ程腕の立つ人物。
クマドリ殿は大変賑やかな御仁で、フクロウ殿は諜報部員とは思えぬ程口がお軽い。
隣のジャブラ殿はとても豪胆な方で、どこか兄的な要素を持っている。
ロブ・ルッチ殿は、実のところまだよく分からない。
よく分からないからこそ、近寄りがたく感じているのだ。
気怠そうに両腕を頭の後ろで組んだジャブラ殿は、ふと何か思い出したかのように呟いた。

「そういや、ナマエお前よォ」

何でしょうか、と相槌を返す。
彼はこちらは見ずに続けた。

「能力者って、知ってるか?」
「それは、俗に言う"悪魔の実"の話でしょうか」
「おう」

悪魔の実。
世にも珍しい果実のことで、食すれば人ならざる力が手に入る。
が、その代償として海に嫌われてしまうらしい。

「ええ、まぁ。珍しいものと伺っていますし、本物の悪魔の実は見たことがありません。能力者の方なら、何名かお見かけした程度です」
「お前は能力者じゃないのか」
「残念ながら。ですが、たとえ能力者であったとしてもみすみす手の内を明かすような真似は致しません」
「ま、そりゃそうだわな」

彼独特の大きな笑い声が車内に響いた。
何故今このような話を私にけしかけて来たのか、その真意は分からない。
けれど、私が脅威ではないと判断したらしいジャブラ殿は少しだけ警戒の度合いを緩めていた。


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