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真新しい嗚咽 2

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あの後、少ししてから長官殿が店から出てきたので私は黙ってその場を離れた。
ちょっと満足気な長官殿が、何やら嬉しそうな独り言をこぼしている。
普段なら適当に相槌でも返しておくのだけれど、今の私にはそこまでの余裕はない。
青雉と会ったせいで、昔のことを嫌でも思い出したのだ。
島を出て軍艦に乗り、不夜島まで戻る。
やけに仰々しい出迎えにやはり上機嫌な長官殿を、私はそれをいつも以上に煩わしく感じた。
どうにも気持ちが落ち着かない。
さっきからやけに背中も痛む。

「どうしたぁ、腹でも減ったのか?」
「いいえ。どうぞお気になさらず」

流石の長官殿も、私がどこかおかしい事に気がついたらしかった。
気がついたところまでは、良かったがやはり見当違いも甚だしい。
こんな感情のままこの場にいるのは良くない。

「すみません長官殿。実は総督殿から別の仕事を頼まれておりますので、今日はもう部屋に戻っても?」

半ば有無を言わせない形だった。
いつもより頑なな態度に少々驚きの表情を見せていた長官殿だったが、ひらひらと片手を振ってお疲れさんと言う。
外ならともかく、この司法の塔へ乗り込んでくる賊など万が一にもいないのだからまあ当然の対応だろう。
彼に嘘を吐いたのは、これが初めてだった。

▲▽▲

長官室から、そう離れてはいないところにある私用にあてがわれた部屋。
そこへ向かうほんの数分の間に、また会いたくない人物と出くわしてしまった。
随分と、そう、俗世離れした格好だが言及するのはよそうと思う。
彼は、大きなトランクケースを提げていた。
確か今日あたりから、彼ら長期の潜入任務に入るはずだ。
政府のお偉方様がやたらと欲している古代兵器・プルトンの設計図を確保するための任務。
さて、これから港にでも向かうのだろう。
彼の邪魔をするわけにはいかないという気持ち1割、今は言葉を交わしたくないという気持ち9割。
黙って傍を通り過ぎようとした時、ハットリがめざとく声をかけてきた。
言葉は返さず、彼にだけ分かるように小さく笑いかえすだけにとどめた。
妙な視線を背に感じつつ、するりと部屋に滑り込む。
いくらルッチ殿がある程度知っているとはいえ、急に声を発してはおかしな女だと思われる。
いや、すでにそう認識されているのかも知れないが。
誰の視線も感じない、扉の外に気配もない。
ようやく一人になれたらしい。
そう思うと同時に、ずるずると扉を背にしてしゃがみ込んだ。

「ーー」

少し落ち着いた。
もうどこも痛まないし、人間の視線も声も気にならない。
これでもうちょっと部屋が手狭なら良かったのにと、悪態をつく余裕も出てきた。
大きく息を吸って、ゆっくりと吐く。
それからそっと立ち上がって、今度はソファに腰を下ろした。
怖がる事も、心配する事もない。
今の私はあの頃とは何もかもが違うんだから。


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