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とにかく習うより慣れろ3

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「...私に話とは」

書類を届けるだけのはずだったのだが、ルッチ殿に呼び止められた所為で、まだ彼の部屋にとどまっている。
当人は、ずっと黙ったまま私を見ていた。
私という人間を品定めするような、浴びていてあまり気持ちの良い視線ではない。
そして眺め飽きたのだろうか。
フン、と小さく嗤ってからようやく口を開いた。

「お前は、何者だ」

そう問われ、一瞬意味がわからなかった。
何者かと聞かれたって、答え方は幾通りも存在するだろう。

「...質問の意図が分かりません」
「なんだと」
「ですから、貴殿が私に求める解答が理解できないと」

はっきりと言えば、ルッチ殿の眉間の皺が深くなった。
ああ、きっとお怒りなんだろう。
だがこちらとしても、答えようのない質問をされても困るのだ。
先ほどよりもかなり険悪な空気が流れる。
なんだか、初めの挨拶の時みたいだ。
そんなおかしな空気を破るように、ハットリがクルッポと鳴いた。
その声でルッチ殿の表情が、一瞬だけ柔らかくなったような気がした。

「ならば聞き方を変える。お前の所属は」
「...CP0、諜報部員です」
「任務内容は」
「スパンダム長官の護衛及びCP9の活動補佐、です」

聞かれる事に対して、事実だけを答えていく。
特に意味があるとも思えない問答が、数度にわたり続いた。

「最後に聞く。貴様の忠誠は何処にある」
「私の忠誠は、政府と天竜人でなければなりません。そこに私情があってはならない」

昔も今も、きっとこれからも、そうある事しかできないだろう。
そういえば昔は違ったかもしれないが、思い出せない。
変わらないのは、私より上の立場の者からの命令には絶対服従だという事だけ。

「ご満足いただけましたか」
「ああ、大体理解できた」

口調とは裏腹に、どこかまだ不服そうな顔をしている。
この方は一体何を求めているのだろうか。
私は一刻も早く、この重い空気から脱したいと思った。
そうしなければ、何だか変になってしまいそう。

「仕事が残っています。私は、これで」

この部屋に足を踏み入れてから延々と浴び続けている視線から逃れるように、私は立ち上がった。


▼△▼


「ご苦労。にしても、遅かったな」

長官室へ戻るやいなや、そう言われた。
ルッチ殿につかまって色々と聞かれていた為に時間がかかった旨を伝えれば、憐れみの目を向けられた。
長官殿もルッチ殿を恐れているらしい事は、ここ数日見ていれば理解できる。
会話や接触を避け、やりとりがあっても何やらビビっている節があった。
長官殿の方が立場は上だが、実力は明らかにルッチ殿が優っている。
謀反など起こされては、ひとたまりもない。
まあ、そんなバカな事をあの人がするはずもないが。

「...私の忠誠、か」

ついさっき聞かれた問いを思い出す。
確かに、ここまでの人生で誰かに忠誠を誓った事はない。
単にそう思える人物に出会わなかっただけの事かもしれないし、私にそういう気持ちがないのかもしれない。
どちらにせよ、今はまだ必要がないと言える。
盛大に珈琲をデスクに溢す長官殿の声を聞きながら、眼下に見える海を眺めていた。


▼△▼


部屋まで書類を届けに来たという女を引き止め、軽く尋問まがいの事をした自分の考えがわからなくなった。
とりあえず思いつくだけの問答を繰り返した後、女は逃げるように立ち去っていった。
至極当然だと思う。
居心地が悪かった事に関しては、納得する。
しかし。

「やはり分からん」

何を聞いても、形ばかりの返答としか思えない。
あの女の意思や思考が微塵も含まれていないように感じた。
よほどの演技上手か、精巧な刷り込みの結果なのか。
はたまた、アレがミョウジ・ナマエという人間なのだろうか。
だとしたら、それはもう人ではなくアンドロイドだ。
見た目だけ人に似せた、精密機械に他ならない。
それだけなら本当につまらない女だという認識で終わるのだが、俺にはミョウジの何かが引っかかっている。
機械のようなあの女があの時一瞬だけ見せた、僅かな笑み。
そして、教えてもいないハットリの名を当てた事。
そのカラクリを先の問答で聞きそびれたのではなく、聞かなかった。
ここで聞いても答えは返ってこない気がしたからだ。

「クルッポ、ポー」
「ん、ああ、気にするな」

眉間に深いシワが刻まれていると、肩に止まるハットリから指摘を受けた。

「お前はどう思う、ハットリ」
「ポッポー?」
「あいつだ、ミョウジというあの女」

暫く考えるそぶりを見せたハットリは、やがて数度羽ばたいてから鳴いた。
その返答に、多少なりとも俺は驚いた。
悪い子には見えなかった、と。

「まあいい、いずれ吐かせてやるさ」

まさに悪鬼のごとく笑う男を、肩の上のハットリは不安げに見つめていた。


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