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はじめましては上手くいかぬ 3

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大きく1つ、息を吐いた。
殺戮の化身のような男が部屋を出て行った事で、幾分も空気が軽くなったように感じる。

「立派な部屋。流石CP9...」

もう一度ゆっくりと室内を歩き回ってみる。
私には大きすぎるほどのベッドに、上質そうなソファ。
腰を掛けてみれば、心地よく体を支えてくれる。
南向きの大きな窓からは、暖かな陽光が差し込んでいた。
こんなに素敵な部屋をあてがってもらったのだ、我儘なんて言う必要がない。
まぁ環境には文句の1つもないが、ちょっと人材には物申したい気分だ。
殺戮兵器、あのロブ・ルッチという男。
名前くらいは聞いた事があったけれど、実際この目で見たのは初めてだった。
初対面であそこまで殺気を飛ばされるとは思いもしなかった。
こちら側の不手際があったとはいえ、アレは如何ともしがたい。

「...気をつけとこう」

ポツリ、そう口からこぼした。
まったく、こんな調子で5年間もやっていけるだろうか。
革張りのソファに寝転がって、ぼんやりと天井を仰ぐ。
あぁ、天井が高い。
やっぱりこれじゃ私には勿体なさすぎる。
二度目のため息は、陰鬱な気分によるものだった。


▼△▼


ドアノックの音が、ぼんやりと聞こえる。
一瞬夢かと思ったが、やはり現実での出来事のようだ。
どうやら、私はあのまま眠ってしまったのだろう。
ソファから跳ね起きて、どうぞと返事をした。
しまった、スーツにシワが付いている。

「お食事をお持ちしました」

ワゴンを押し部屋に入ってきたのは、メイド服の女性。
手早くテーブルに食事や飲み物を並べると、失礼しますと告げてから去っていった。
私はどれくらい眠りこけていたのかと思い、壁時計を見やれば8時を指していた。
さらに、窓の外は明るい。
まさか朝の8時まで寝てしまったのか私は。
と、焦りで半分ほど停止した思考はある事を思い出した。

「ここ、不夜島なんだった...」

エニエスロビーに夜は訪れない、そう聞いている。
一日中昼間のように明るいらしい。
つまり現在は夜の8時であって、朝でない。
そっと胸をなでおろした。
にしても、日が沈まないとは奇特なことだと思う。
これからは感覚ではなく時計に注意して過ごしていかなければ。

「いただきます」

そんな事を思いながら、運ばれてきた食事に手をつける。
ここの食事は予想を上回る美味しさだった。
盛り付けもさることながら、味も絶品。
司法の塔にいる人間はこんなに美味しいものを食べているのか。
あぁ、でもCP0も同じようなものかな。
なんにせよ食事は美味しいのでこの先の任務が少し気楽になった。
食べ終え、ご馳走様でしたと手をあわせる。
もう少し経てば給仕が回収に来るだろう。
壁時計を確認すれば、時刻は9時前。
まずはシャワーを浴びよう。
その後、総監に最初のご報告を入れたら今日は早めに休んでしまおうかな。
キャリーケースから着替えと電電虫を取り出した。
デスクの上に電電虫を置いて、私はシャワールームへと向かった。


▼△▼


ポタポタと水滴の滴る髪を拭きながらシャワールームをでる。
これまた広くて豪華なシャワールームだった。
キンキラキンとまではいかないが、細かな彫刻やらが随所に刻まれていて、なんだかお金持ちにでもなったようだ。
ある程度髪も乾いたところで、電電虫をかける。
数コールの後、ガチャと鳴いた。

「総監、こちらミョウジです。スパンダム殿にお会いし任務の了承を得ました。明日からで良いとの仰せでしたので、そのように致します」

手短にそう伝えれば、総監はそうか励めよとだけ言って通話をお切りになった。
うん、いつも通り。
私も受話器を置いて、すぐ横にあるベッドに倒れこむ。
ふかふかのベッドに柔らかい枕、それらのすべてが私を眠りに誘おうとする。
昼間も眠ったはずなのにな。
もう半分ほど思考を止めた頭で考える。
明日は何時に起きようか、朝日とともに目覚めるのが日常だったが、ここでそれは通じない。
最悪誰かが起こしにくるかもしれないが、そんな事になればCP0という立場での任務に支障が出る。
不夜島とは困ったもんだ。
小さなあくびをかましてから、完全に寝る体制に入る。
これまでずっと明けとともに目が覚めていたから、明日もきっと大丈夫だろう。
おやすみなさいと、小さく呟いてから目を閉じた。


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