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はじめましては上手くいかぬ 2

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ノックの音が三度して、それから長官室の扉が開いた。

「長官。お連れしました」

シルクハットの男に続いて、白いスーツの女が部屋に入ってきた。
スパンダムはそれを見ると近くに来るようにと招き寄せる。
男はそのまま扉付近に、女は指示に従って歩み寄った。

「お前が、親父の言ってたヤツだな」

それを肯定するように女は頷く。
肯定を確認したスパンダムは、自身も満足そうに頷いた。
女が、佇まいを軽く直してから言う。

「サイファーポール・イージス0から参りました、ミョウジ・ナマエです。CP9の補助及びその長官スパンダム殿の護衛を仰せつかってまいりました」

言い終えて、頭をさげる。
その言を聞いたシルクハットの男は、怪訝そうに片眉を上げた。
男の肩に乗る白い鳩も、小首を傾げている。
そんな一人と一匹を尻目にスパンダムが声をかけた。

「まぁまぁ、そう固苦しくすんなや! おいルッチ」

ルッチ、そう呼ばれたのはシルクハットの男。
男は黙したままスパンダムの方へ近づいた。

「こいつはロブ・ルッチ。何かわからない事があったらルッチに聞けばいい」

スパンダムによる簡素な紹介が、ルッチの眉間に刻まれたシワをより深くする。
女は軽く頭を下げ、お願いしますと言った。
顰め面をするだけで何も返さないルッチとは対照的に、白い鳩はパタパタと羽を動かして返事をしている。
任せておけ、とでも言いたげだ。

「んじゃ、今日はもうさがっていいぞ。明日から頼むぜナマエ」

ほとんど全てをルッチに丸投げしただけのスパンダムが言う。
女は、再び一礼するとを長官室を後にした。
ルッチも、彼女の後を追い退室した。


▼△▼


白いスーツの女の前を、黒いスーツの男が歩く。
両者の間には数歩分の距離があるものの、歩みのペースは変わらない。
廊下の突き当たり、その少し手前にある扉の前でルッチが立ち止まった。

「ここがお前の部屋だ。中にあるものは好きに使っていい」

ギイと鈍く重い音を立てて、扉を開けた。
ルッチが先に入り、ナマエもそれに続く。
一人で過ごすには広すぎる部屋だと、思った。
寝具が1つと、デスク、ソファ、本棚もある。
キョロキョロと部屋中を見回るナマエを余所に、ルッチは指をさしながら風呂だのクローゼットだのの位置を示す。
一通りの説明を終えたその指は、次にビシッとナマエを捉えた。

「ここはCP9の本拠地。お前のいた所とは勝手が違うだろうが我儘は聞かんぞ」

ナマエを射抜く視線は殺人鬼のそれ。
少しでも気に食わなければ即刻殺すと、ルッチの雰囲気が物語っていた。

「...承知致しました」

背筋の凍るような殺気をものともせず、ナマエはルッチをまっすぐ捉えて言う。
しかし、次の瞬間にはパッと頭を下げていた。

「あの、先程は申し訳ありませんでした。ロブ・ルッチ殿をスパンダム殿と勘違いしてしまい...」

表情こそ変わらないが、声色は明らかに謝罪の意を含んでいた。
すみませんと呟く声と同時に、ルッチがフンと鼻をならして視線を逸らす。

「あのバカと間違えられるなど、心外だ」

心底嫌そうな顔をして、そう吐き捨てた。
ナマエはもう一度、申し訳ありませんと零した。
無表情だがしゅん...としてしまったナマエの肩に、パタパタと白い鳩が飛んでいく。
そして、その頬にふわふわで柔らかい羽を目一杯擦りつけた。
慰めるような、元気づけるようなその動作に、ルッチは目を見開く。
白い鳩ーハットリがルッチ以外に懐くのは、あまり見られない。

「...ありがとうございます、ハットリ」

さらに驚くことに、ここに至るまで一度も表情を崩さなかった彼女が、僅かだが微笑んでいる。
その笑顔は明らかにハットリに向けられたものであり、羽を優しく撫でられたハットリも嬉しそうにしている。
クルッポーとハットリが鳴いた声で、ルッチはふとハットリを自身の方へ呼び戻した。
また小さな羽音と共に主人の方へ戻る白い鳩。
ハットリはルッチの肩に止まると、今度は誇らしげに胸を張っていた。
そんなハットリをルッチは数度撫でてから、くるりと向きを変えて扉の方へ向かう。

「...まぁ精々、バカのお守りを頑張る事だ」

部屋の扉が閉じられる寸前で、ルッチはそう呟いた。


▼△▼


静かな廊下に、コツコツと革靴の音だけが木霊する。
男は、長官の護衛という名目でここを訪れたあの白いスーツの女について考えていた。
CP0の任務の殆どは、天竜人に関するものだと聞く。
そのような組織があのバカの護衛に人材を割くとは考え難い。
とすれば、他に目的があるのではないか。
どのような目的か現時点では不明だが、こちら側に不利益を被るものだと面倒だ。
そしてもう1つ気になる事がある。

「おれは、あの女の前で一度もハットリと呼んでいない筈だが...」

その一言に、ハットリはポーと鳴いた。
ルッチにとってナマエという女は要注意人物になり得るが、ハットリにとってはもっと違う存在なのだろう。
まぁルッチはそんな事を許さないのだが。

「あまり不用意に近寄るなよ」

肩に乗る相棒にルッチはそう言って釘を刺し、含みのある笑みを浮かべていた。


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