晴れた空のきれいな朝に


!行長・三成・正則・清正・おね


「いらっしゃいませ」
「まあ!素敵な店内」

三成の営業スマイルはばっちりで、

「こちらのお席にどうぞ。只今メニューを取って参ります」
「あら、ありがとう」

意外と礼儀正しく喋る正則に、

「お待たせいたしました。カプチーノになります」
「美味しそうね」

微笑むと案外素敵な清正。

なんでだろう、初日のくせにこの振る舞いの良さは。
俺は思わずポカンとしてしまった。

俺のイメージならば、三成は相変わらず愛想のかけらもなくて、正則は皿を落とし、清正は微笑む度に顔がひきつり…
それはそれは残念な結果になるのではと危惧していたのに。

目の前の女性は朗らかに笑い、カプチーノを飲んで美味しいわと言った。
いくつだろうか。笑った笑顔が少女みたいに可愛らしい。

「おいしいわ、これ。素敵ね」

素敵ね、が口癖なのかもしれない。さっきから良く聞いているし。
けれど素直に嬉しくて、おれの顔も思わず緩んだ。

「ぉねっ…お、お客さま」
「はあい」
「かっ、肩をお揉みいたします…」
「あら嬉しい、じゃあお願いしちゃいましょうか」

ふむ。
サービス意識がありよろしい、と正則を見て、俺は厨房で一人うなずいた。
多少のぎこちなさはあるけれど、それがまた初々しくもあるのだ。
三成は三成で、お代わりのコーヒーをせっせと注いでいる(うちのコーヒーは、小さめのポットに入れてコーヒーを自分でカップに入れてもらう方式なのだ)。
なんだかおかしいけれど、よく気が利くなとも思う。

清正はカウンターに固まったまま、ふきんを握りしめ動かない。
目を凝らして、女性と正則、三成を見つめていた。

「あー気持ち良いわ。素敵な店内で素敵な飲み物と、素敵なサービス。素敵ね」

軽快なリズムで肩を揉む正則、隣でお代わりを注ぐ正則、依然としてふきんを握りしめている清正から、安堵の溜め息が漏れた。
心なしか、顔も明るい。

その理由を、次の瞬間おれは知ることになる。

「こんな素敵な場所に来れて良かったわね、三成、正則、清正。花丸だわ!」

……………ん?
三成、正則、清正?

赤の他人であるこの女性が、なんでこの三人の名前を知ってるんやろ…
そして謎の言葉、“花丸”。

「ほ、本当ですか、おねさま!」
「本当よ」

きらきらとした顔で、三成が思わず声のトーンを上げた。
……って、え?
…………おねさま?
なんで三成もこの女性を知ってるんやろう。

「行長さんはどこかしら」
「は、はい!ここです」

そして思いの外、呼ばれた名前に仰天。
なんでおれの名前まで知ってるねん!
と思いつつ、急いで“おねさま”の元へ行くと。

「行長さん、素敵なカフェですね」
「あ、ありがとうございます!」
「この三人をよろしくね」
「…?は、はあ……」
「あら、言ってなかったかしら……わたし、この子達の母で、羽柴おねって言うの。三人がお世話になるわ。ごめんなさいね」
「……ってことは…」

さあっと血の気がなくなるのが分かる。
それもそのはず、だってこの人は羽柴の…社長夫人なのだから!
ハシバは、このビルをおれに破格の値段で貸してくれている会社だ。
ハシバあっての1600。
ハシバあってのコーヒー。

その社長夫人が直々にウチなんかに来たのだ。
驚かないわけがない。
俺は俺で、結構な粗相をしてしまった気がするのだけれど…

「行長さん」
「は、はいっ」
「あなたになら安心してこのお店を頼めるわ。」
「は……はい!」

これからもよろしくね、なんて。
ウインクまでされてしまえば、にへらと笑うしかない。

「この子たちが心配でね、わたし、偵察に来たのよ。駄目なようなら速攻、やめてもらって、ここも畳んでもらおうって」

うわあ…笑顔でめっちゃ怖いこと言わはるやん、この人…
思わず乾いた笑みを溢すと、夫人は冗談よと言って舌を出した。
どこからどこまでが冗談なのかは謎だけれど。

「けどそんな心配なかったわ!うまくやっていけそうだし…改めて行長さん、これからもよろしくね」
「こ、こちらこそっ!」

手を差し出されたから、反射神経で握る。
思わず力が入りすぎたらしく、痛い痛い、と笑って見せるおねさんに我にかえる。苦笑いを返した。

「じゃあそろそろわたし、おいとまするわね。お代はここでいいかしら?」
「あ、はい!ほんまにありがとうございました!」
「がんばってね」
「はい!」

一度ひらりと手を振って、社長夫人おねさまはこの店をあとにした。


はあ、と大きく息をつく。
後ろに立つ三人も、一緒に息をついた。

「………は、はは」

…………

「めっちゃ緊張したあ…!!」
「すっげえドキドキしたぁああっ!!」

めっちゃ心臓ドキドキしてる。
同じくして叫んだらしい正則も、わあわあ喚きながら床をゴロゴロ転がっている。

「…ひ、ひとまず良かったわ…もうこれで一安心やねんよな」
「そうだな…おれも安心した」

三成の言葉に本当に安心した。
この三人にとっても試練やけど、俺にとってもこれは試練やってんな。
無事に終わってほんまに良かった。カフェ続けられて、ほんまに良かった。

「………」

清正からは緊張が抜けきっていないらしい(何もしてないのに)。まだふきんを握りしめている。
ふきんを握りしめたまま、大きなため息。

「キヨ」
「……あ、正則?」
「良かったな!これからここで働けるぞ!」
「ああ…良かった」
「さ、片付けるぞー!」

元気よく正則がカップやスプーン、皿を片付け始める。
それに続いて、清正と三成も動き始めた。
……と思ったら。

「あ」
「あ」

正則と清正の声と同時に、後ろでパリン、と音がした。
何の音かなんて、聞かれなくてもわかる。
俺はゆっくり振り向くと、にへらと笑む。

「何の音ー?」

分かってるよ。
分かってるのに聞く、それがおれ。
正則は頬をひきつらせたまま、こちらをぎこちなく見て笑った。

「……てへっ」

彼の手の中には、真っ二つに割れた皿。どうやったらそんなに綺麗に割れるんやろう。

「なぁ、正則くん」
「………はい」
「それ高いねん」
「…」
「弁償するまでタダ働き、って知っとるよな?」

にっこり人のいい笑みを浮かべた俺を見て、正則が悲鳴をあげたのは次の瞬間。




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