落胆注意報が出ています


!行長と佐吉と市松と虎之助


今日の天気は朝からからりとした晴れ。
……のわりに、強い風が吹き荒れとります。

こわいなー、なんか悪いことでも起こりそうやんか…そんな予感がする時に限って、必ず悪いことが起きるモンなんよね。

からんからん。

ほら、お客さんの合図。

「タノモーッ!!」

ほら、カフェには場違いなほどの大音声。
用意中の手を止め、呆れて入り口までいくと、案の定男の子が三人立っていた。

…ちゃんとプレート見た?
まだ青かったやろ?
closeって書いてあったやろ?
まだ朝7時やで?
開くんは8時半やで?

「いらっしゃいませ…てゆうかまだ開いてへんねんけど」
「知っとるよ!」

知っとるんかい!
思わず心の中で突っ込みを入れてしまう。

「じゃけーこのぐらいがベストって、三成が」
「はあ?」

鼻の上に絆創膏を貼った男の子がニッと八重歯を見せて言う。
なんだか昔のアニメを思い出した。

それはそうと、なにがベストなんやろ。
とにかくこの3人はウチのカフェに、お客さんとして来たわけではなさそうだった。

多分学生なのだと思う。
二人は長浜高校の制服をきているし、一人は長浜中学の制服を…

「あれ、君らってもしかして…?」
「羽柴の家の者だ」

先ほどの絆創膏くんに代わって、きりりとした顔立ちの男の子が答えた。
腕をくんで、どこか人を食ったような表情をしている。目つきがこう…俺を見下しているそれだ。
さらされているおでこにでこぴんを食らわせたい感じ。
そう、この子たちは確か。

「…ああ、この前はどうも」

たしか、この前挨拶に行った秀吉さんのとこでちょろっと見たのだ。子供かどうかはよく分からないけれど。
大きいのが正則と清正、小さいのが三成…やったっけ?

「…あれ、三成くんって中学生やなかったっけ?」
「え」
「え?三成は高校生じゃよ!中学生はキヨじゃ」

すると、正則くんが慌てて清正くんを指差す。
彼は中学生用の、ワントーン明るい制服をまとっていたが、彼の(老け)顔や威圧感がそれを黒く染めているようにも見えた。
どんな中学生やねん。全然中学生になんか見えへんわ。

「うそや〜、こんな目付き悪い背ェ高い中学生はおらんって」
「ホントにキヨは中学生なんじゃ!純白な顔しとるじゃろー!」

俺がニヤニヤ笑って言うと、正則くんは清正くんを指差した。
…いや、純白のかけらもない気がするねんけど。

「三成はほら、高校生らしいずるがしこい悪ーい顔を…」
「あー、まあ確かにね。けど見えへんわぁ…制服交換する?」

続けて三成くんを指差すが、おれにはただのひねくれ中学生にしか見えない。
少しからかってみると、三成くんの片眉がちょいと上がった。

「……ん…?」
「へ」
「おれのどこがずるがしこくて悪い顔なんだ?」
「すべて…って…あ!」

それから三成くんは笑みを浮かべた。と、同時に、後ろに龍が見える。
うわ、幻覚?けど見えるよ?なにこれ、こんなん漫画でくらいしか見たことなあい!

「自分の言葉に責任はもてるな?」

三成くんは、ビックリするほどいい笑顔で俺たちに微笑んで見せてから…正則くんとついでに俺にも回し蹴りを盛大に食らわせた。

「ゆきながぁ!だから言うたじゃろうー!」
「えええとばっちりー!?」
「自分の胸に手を当てて考えろ!」

正則くんと俺はそれを慌てて身を屈めて交わす。
正則くんは出された三成くんの足を掴んで半分泣き声をあげた。
なにが起こったのかイマイチ分からないが、とにかく……

「………スンマセン」
「謝るのなら許す」

三成くんは頬を膨らませていった。
清正くんは、一人さびしそうに黄昏ている。うん、ごめん。めっちゃ中学生なオーラがでてるわ。





「ところであなた方は何をしにいらしたのでしょうか」
「まあいい、座れ」

いやあ、あのなんで俺がこんなに弱い立場になってもうてるんですかね。
目の前は椅子に腰掛け足を組んだ三成くん。それから並んで正則くん、清正くん。
三人ともパフェを美味しそうにつついています。

…そして俺は、床の上に座しています。
なんなんやろ…この感じ……

「小西と言ったか…お前、あれだろ、人手少なくて困ってるだろ?」

三成くんはパフェのスプーンを振りながら、俺を見下した。
これはなんでしょう、いつかの下克上というやつでしょうか?
え?今何時代?

「いや、別に困っては…」
「困ってるんだろ?小西よ」
「ハイスンマセンめっちゃ困ってます」

強気で、しかも見下した目付きで、まるで睨みつけるように話かけられる。
圧力5割増し。こういうしかない。

「…清正の課題に付き合ってはくれないか。で、ついでにおれたちも雇ってくれたら嬉しいのだが」
「はあ………」
「そうだ、もう一度名乗っておくが、おれは三成。隣の絆創膏のアホ顔が正則、ばかでかいのが清正だ。呼び捨てでいい」

佐吉は高校2年生、正則は高校1年生、清正は中学3年生。

聞いたところによると、この三人(呼び捨てで良いと言われた)は、みな血の繋がりはなくとも、羽柴宅で家族同然に暮らしているらしい。

で、だ。

長浜中学の3年生には、高校への進学の試験が、実際に本物の職場を味わってみて、それをレポートにして提出するというものらしい。
期間は2週間だけだが、その間、中学3年生である清正のそれに付き合ってやってくれないか、ということだった。(お金はいらないらしい)

「いいか?」
「あー、まあ、はい」
「そうか、ありがたい」

三成はそう言ってにっこり笑った。
その爽やかな笑顔から、どす黒い何かがむわむわと放出しているのは見ないことにする。これを怒らせると、また龍を召還しそうで(いや、しないけど俺の心境的に)こわいので、にっこりひきつり笑顔で返した。

「もちろんおれと正則は中学3年生ではないから、きっちり給料はいただくがな」
「あ、はい!……ってえー!?」
「当然だろう」

ああ…夢ばっか見たあかんねんな…ほんまに……
……俺の夢が………

「…それはそうと……なんでウチに……?」
「行長、声が死にかけとるぞー」

正則の声にものすごく苛立ったが、どちらかといえば落胆の方が大きい。
どれだけ俺が落ち込んでるか分かるだろう。
もう、いろんな意味で昇天しそうだ。
グッバイ、いままでの爽やか且つ、仕事を楽しんでいた俺。

「……ん?…ひでおしはまととひはがが…」
「正則、ちゃんと飲み込め」
「…うん。秀吉さまが教えてくれて、利長が場所を案内してくれたんじゃ」

利長くん、って言えば前田修理店の彼か。そういえば、彼も長浜高校だと言っていた。
そうか。あの子ええ子やと思っててんけどな…まあ、おそらく悪意は無いのだろう、あの子にも、この子達にも。

「ああ…そうなん…」

なんだかどうでもよくなってきた。もう開き直ろうかなあ。
…うん、そうしよう…はあ。
精神が持たんわこれ……

「…じゃあおれたちはそろそろ帰るぞ。暇じゃないのでな。明日から毎日だ。放課後に来る」
「行長さん、ごちそうさまー!」
「…よろしくお願いします」

そうしてパフェを食べた三人は帰っていった。
荒らすだけ荒らした畑に農夫が一人たそがれている。
それが今の俺です。

柔らかい日差しに当てられた、少しレトロな店内で、黒いエプロンを着て、お客さんと他愛ない話をする。
で、バイト希望の可愛い女の子と仲良くなって最終的には恋に落ちる…
……無理やね。すみませんでした。
思わず肩が下がる。そのくせ、重圧ばかりが俺の両肩にのしかかっているような気さえした。
なんやろう、この虚脱感…

「明日から……地獄やなあ…はぁ」

俺は床の上に座り込んだまま、ぼんやりつぶやいた。


天気予報のお姉さんが、にっこり微笑んで天気予報を伝えている。
暖かい日になるでしょう、というようなことを言っているのにも関わらず、俺には、落胆注意報が出ています、傘を持っても折れる可能性があるでしょう、十分にお気をつけください。
そんな言葉にしか聞こえてこなかった。




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