強がりの魔法
※※宇喜多秀家と豪姫
恥ずかしいくらいに甘いです。
豪のちょっとした憂鬱

「ねえ、豪」
「……なに?」
「怒ってる?」
「別に!ただ、」
「ただ?」
「あなたが嫌いなだけだっ」

喧嘩をした。
きっかけはあたし。
巻き込まれたのは彼。

「ごめんね、豪?」

しかも喧嘩と言ってもあたしが一方的に怒っているだけで、

「ふん!」

秀家さまはそんなあたしに振り回されて、それでもあたしの目を真っ直ぐ見つめている。

そんな姿を見て、生まれるのは相変わらずの罪悪感。

あああたしはなんて馬鹿なんだろう。悲しくて悲しくて、何故か零れたのは涙じゃなくて減らず口。ぷりぷり膨れた顔の自分が憎い。

なんで可愛らしくできないの、このままじゃ本当に本当に、秀家さまに嫌われちゃうよ。

いつも思っていた。
秀家さまは本当に素敵でかっこよくて…あたしには届かないような人だと。
それに比べてあたしは、強がりで意地っ張りで、性格だって男の子みたい。

だから、可愛い、女の子になりたい。

秀家さまに釣り合うような可愛い女の子に、秀家さまと同じようにきらきら光るような可愛い女の子に、なりたいと、そう思ったから。

だからマリアや行長さんにも手伝ってもらって、可愛らしく着飾って、お化粧だってしたのに。せっかく、可愛くしてもらったのに。
秀家さまに釣り合うような女の子になれた気がしたのも束の間。

………だめだ。
あたしの心がこんななんだもの、可愛くなんてなれやしない。
着飾ってばかりじゃダメなんだ。そんな分かりきったこと、今更分かって今更落ち込んで。

心の奥がずきずきする。
瞳からは涙がぼろぼろ伝う。

「豪?」

秀家さまは小首をかしげ、あたしの手をぎゅっと握って目を見つめた。握った手はとても優しくて、瞳はかすかに揺れていた。
こんなの、あたしよりずっとずっと、秀家さまの方が可愛いじゃない!

「豪、どうした?ごめん、わたしが悪かったんだ」

なんで秀家さまが謝るんだろう、非はあたしにあるのよ?
あたしが謝るべきなの。なのに、あたしの口から溢れるのは、可愛くもなんともない、圧し殺したような嗚咽だけ。

最低だ、あたし。
最低な女だ。

なんでこんなになっちゃったんだろう。
そして再び口からでるのも、生憎彼を責める言葉で、皮肉にもなりやしない。

「あたしが悪いのに何故秀家さまが謝るんだ!」
「だって豪が泣いているのはわたしのせいなのだろう?」
「違う、違うの」
「どうしたの、豪」

そっと頭を撫でられて、泣き止めるはずがないじゃない、もっと甘えたくなるじゃない!

「あたしはなんでこんなに可愛くないんだろう!秀家さまも、あたしの事嫌いになったでしょう?」

わんわんと声をあげてなく。
ああ、お化粧が落ちてしまう、泣き方だって全然可愛くない。

「なんでそう思うの?」

一度、目をぱちくり。
それからふにゃっと頬を緩めて秀家さまは笑う。それからあたしの涙を拭って言った。

「お化粧、すごく似合ってるのに」
「……………え?」

目の前が、ぱちぱちと弾けた気がした。
それは、あたしが欲しくてたまらなかった言葉。気づいて欲しかった一言。
再び涙が頬を伝う。今度は悲しみなんかではなく、ひがみなんかではなく、最高の幸せの涙。

「着物だって、素敵な色。豪だけの色みたい。本当に綺麗だよ。いつも可愛いけど、今日の豪はすごく大人っぽくて」
その台詞に思わず赤らむあたしを見て、「うん、可愛い」なんて言って。
首を傾げて微笑む秀家さまは、あたしが今までで見た、どんな男の人よりも素敵で、かっこよくみえた。

ずるいよ、そんな不意打ち!
秀家さまはずるい。あたしがばかみたいじゃない。
こんなにも秀家さまはあたしを見てくれていたのに、あたしはそれに気づこうともせず、一人でぷりぷり怒っていた。
けれど、彼が放つ言葉は、幻術みたいにあたしの心を蕩けさせる。どれだけ台詞でも、彼が言うと、世界で一番の誉め言葉に聞こえてくるのだ。

だってほら、いつの間にかあんなに怒っていたことを忘れて、いまじゃ顔から火が出ているように熱い。

目が合わせられなくて、思わずうつむく。

「ご、ごめんなさい」
「なんで豪が謝るの?」

くすくす笑う秀家さまに見つめられて、あたしはどきりとした。顔だけじゃない、今じゃ身体中がカッと熱い。

「ほら、ちゃんとこっち向いて。笑った豪が見たいんだ」

きらきら。
全く未完成なあたしには、秀家さまは眩しすぎる。けれど彼と一緒にいるだけで、ほんの少しだけあたしも輝ける気がする。
ほんの、ほんのちょっぴりだけど。

「知ってる?豪はすごく可愛い女の子なんだよ」

ああだめ。
あたしはやっぱり、この人が好きだ。好き、すごく好き、大好き。

「そしてね、豪。わたしは豪が何よりも何よりも大好きなんだ」

そう言って、鼻先には彼の唇が。

南蛮には、“魔法”とやらを扱う“魔法使い”がいるらしい。それなら、秀家さまはその“魔法使い”だ。
だってその動作一つで、あたしの強がりの“魔法”をあっという間に解いてしまったのだから!



(それは難しいようで、とても簡単な魔法)




戦世に出させていただいたものです。
選ばせていただいたお題は“強がりの魔法”で、宇喜多秀家と豪姫の夫婦を書かせていただきました。

じ、砂利が吐ける甘さですね‥‥‥秀家が昭和のくささだ!クサイ!(笑)
宇喜多夫婦は炭酸みたいな爽やかさと甘さがあるのがわたしのイメージなのですが、これじゃただの炭酸の抜けた砂糖水‥‥(笑)
けれど書いていてとても楽しかったです。こてこてに甘い宇喜多夫婦も時には‥‥!

それでは、素敵な企画に参加させていただいてありがとうございました!とても楽しかったです。

8/6 嬰



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