強いひと
※市松と虎之助と佐吉と紀ノ介と孫六
ほのぼの‥
というかぬくぬく?


強い人になりなさいと、血の繋がらない母は、まるで教訓みたいにわしらに言った。

例えば武功を上げろとか賢くなれだとかなら、わしだって分かるし、そうしようと思える。
けれど、これほどまでに漠然とした事をいわれると、わしには首を傾げるくらいしかできなかった。

強いって、強さってなんじゃろう?


「あ?……武功を上げたり、戦で活躍することだろ?」

虎はわしの問いに首を傾げ、当然だというように言った。
なるほど、やっぱりそれが一番じゃよな。
……けど、と思い出す。ただ武に長けるだけじゃ素敵な人だとは言えない、というのもおねさまの口癖だったりするのだ。


「……怪我をするなと言う意味ではないか?おねさまが遠回しに心配してくださってるんだろう」

ため息と共に佐吉が吐き出した答えはこうだった。
うーん、確かにそうとも取れるよな。
けれどおねさまは、遠回しに心配なんてしない。心配するときは、直接的に最大限の気持を込めるからだ。
佐吉も少し眉をひそめて、自分の言った言葉に疑問を感じているみたいだった。


「強い心、信念を持ちなさいって意味じゃない?」

紀ノ兄は、自分の胸に手を当てて笑みを浮かべた。
そうか、そうかもしれない。これが一番近い答えな気がする。
一人でうなずいていたら、「でも」と紀ノ兄は続けた。顎に手を当て思案顔。

「それなら“強い人になれ”じゃなくて“強い信念を持ちなさい”って言えば済む話だよね」

………言ってしまえばそうだけど。


「…………市松はどう思うの」
「は?」

孫六は相変わらずの無表情と起伏のない声音で、逆にそう質問してきた。
思わず目をぱちくりさせる。
どうって、なにがじゃ?

「………強いって…正則はなんだと思う?」
「…………」

それが分からないから聞いてるんじゃよ!と言おうとしたが、孫六の次の言葉で思わず口をつぐんでしまった。

「……最後に行き着いた答えが、正則なりの“強さ”なんじゃない………」

そしてふらりと、わしの前からいなくなる孫六。

そうか、とやっとわしは気付いた。
虎は戦で活躍すること、佐吉は怪我をしないこと、紀ノ兄は強い信念を持つこと。
“強さ”はそれぞれで、そのそれぞれが個々の正解なんだろう。
きっとこの問題には正解しかなくて、間違いはないんだ、多分。


「孫六、孫六っ!」
「…………なに?」

数日後、わしは縁側で日向ぼっこをしている孫六を叩き起こした。孫六は迷惑そうに目をこすってから、あくびをして、めんどくさそうにこちらを見る。
孫六のまわりで丸まっていたおでぶの猫が、わしをねめつけてにゃあと鳴く。
しっしと追いやれば、もちみたいな体でえっちらと庭に降りてどこかへ行ってしまった。

さっきまで猫がいた場所を占領し、捲し立てるように告げる。

「わしの考える“強さ”が分かったんじゃよっ!」
「…………へーえ」

意外と興味を持ったのか、孫六は伸びをしながらもわしの方をちゃんと向いた。

「わしの思う“強さ”はさ、“みんなの強さを理解しようとできること”じゃ!」

強いって、一言で言ってもきりがない。あまりにも漠然とし過ぎていてよく分からないし、努力のしようもない。
皆が別々に“強さ”について考える。けれどそれは多分ばらばらで、一個にまとめられない。
だから、皆の“強さ”を少しでも理解しようとすることが、わしの中では一番の“強さ”だと思う。
きっとこれにも答えはないけれど。

「………良いんじゃない?」

孫六は相変わらずの無表情で、けどいつもより軽やかな口調で言った。市松の答えがそれなんだから、自分はなにも干渉しないよって言うみたいに。

多分孫六の考える“強さ”も、虎や佐吉や紀ノ兄とはまた別のものなんだろう。

けどそれでいいんだ。
だってこれが、おれ自身の正解であるから。




なんだかんだでポジティブな市松でした。


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