例のあとの暮らし方
※行長と吉継
ほのぼのというか、二人の人生論というか‥


もういい、と行長はつぶやいた。
ああ、もうええわ。ウチ十分生きたし。もう、くず以下やね。
はよ死にたいなー、なんてぽつりと言って、空を仰ぐ。
キリシタンではあるが、死んだら何処へ行くとか、なにがあるとかは信じていない。信じたところでろくでもないところに送り出されるのがおちな気がするから。

「きっもちわるいぐらいの晴れやこと」

雲がのんびり通る。こんな、おれのような人間がいる事を雲は知っているのだろうか?
…雲に心なんてあるはずないんやけどね。ああ、とうとう頭もおかしなってもたんやわ。
ほんま、

「屑以下。屑の方がええ人生もってる…」

こてんと仰向けきひっくり返ると、まるで自分が塵か屑になったかのような幻覚にとらわれた。
……空が広すぎる。

「空…ひろぉ………」
「そうやって見ていたら、まるで私たちがすごく小さな生き物みたいに思えてきちゃうよね」
「確かに…」

少し考える。後ろのあたりから聞こえるのんびりした声にゆっくり振り向けば、よく知った男が口元を緩ませて立っていた。

「きのちゃん」
「うん」

吉継はゆっくりと首をかしげる。
目はもう見えないというわりに、彼の動きは的確だった。
確か、目が見えなくなってから第五感というのか、感覚が鋭くなったのだ、といっていたような気がする。

「私も思うんだよ。自分の小ささを、まざまざと見せつけられているような気分になる」
「へえ…きのちゃんも考えるんやね。いつも何考えてるか分からんもんなぁ」
「人聞きの悪いなぁ」

吉継はふふ、と笑うと草の上に座り込んだ。広がる草原では、時がゆっくりと進むように感じられた。

「空が広いって思えることって、素敵だと思わない?」

吉継は微笑みながら言った。手は草むらを弄っていて、気づけば両手を駆使して花の冠を作っている。器用やなぁと感心しながら、言う。

「そうかぁ?結構小さい頃から思える事やん」
「だからだよ。小さい頃感じたことを、何度も何度も感じれるの。どれだけ非情に振る舞っていても、空を見たら思い出しちゃうんだよ」
「戦の真っ只中でも」
「そう」

行長が言うと吉継はうなずいた。口元が柔らかな弧をかく。目が見えないとはいえ、どこか穏やかに笑んでいるように見えた。

「それを見る度にさ、まだ生きたいなぁって思っちゃうんだよね」

再び空を見たいから、と。

まだ生きたい。吉継は口元に笑みを浮かべたままだ。吉継と話していると、不思議と穏やかな、それでも諭されているような気分になる。

「空っていいよね」

それから、出来上がった花の冠を持って、佐吉にあげようと独り言を言う。
そして立ち上がった。

「ねぇ。自分で自分を殺したら、空はもう見えない世界に行くらしいよ。そんな世界に一人で行ったとして…行長はどうするの?」

それじゃあお先に、と吉継はゆっくり歩いて行った。
残された行長は、口をぽかんと開ける。

…何もない場所で、空も見れずに一人きり、か。それはさすがにこわいなぁ…と一人苦笑する。とてつもなく寂しいのだろう。

「……おれにはまだ、自分で死ぬ勇気はないわ…な、きのちゃん」




修正して再録。
まだ死ねません。


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