中佐

リオンとの邂逅を果たしたエドとアル2人が数日後に再び東方司令部を訪ねると、そこには凄まじい光景が広がっていた。書類が至るところ広がり、いつもの面々が忙しなく働いている。
そこに2人はつい先日会ったばかりの顔を見付けた。

「あ、あんたはこの間の…」
「あー……『鋼の錬金術師』か。大佐に用か?」
「あ、はい。どこかお出掛けですか?」

リオンに返したアルの問いに部屋にいる面々は長い溜め息を吐く。その反応に2人も嫌でも察しがついた。
2人がまた今度訪ねようと踵を返そうとしたとき、不意にリオンが立ち上がった。

「うわー、ズリィッスよ…。俺も手伝ってください」
「それぐらい自分でしろ。――ブレダ、手伝ってやったらどうだ」
「俺も自分の分で手一杯ですねー」
「そういうことだ。頑張れ、ハボック」
「鬼中佐ー!!」

リオンはそう言って3つある書類の山の内一つを抱える。その姿にエドとアルは以前会ったときの光景を思い出した。

「これ全部持っていくのか?」
「ん?あぁ、そうだな」
「じゃあ、手伝いますよ!」

アルの言葉にエドも頷いて残りの書類を2人で抱える。リオンは2人の厚意に甘えて礼を言った。











「悪いな」
「いえ、あんなの持って3往復するのは大変でしょう」
「ほんと、大佐も鬼だなー。仕事ほっぽって何やってんだか」
「ま、そうやってる内に俺が大佐の地位奪ってやればいいし。――あ、昼飯食ったのか?」

提出を終えて伸びをしているリオンの問いに2人は首を横に振る。それじゃあ、とリオンは続けた。

「昼飯奢るよ。手伝ってもらった礼だ」
「いや、いいよ。まだ仕事あんだろ?」
「俺はノルマ達成したから休憩。昼飯くらい食うよ」
「んじゃ、ご馳走になる」

書類を提出したまま、部屋に戻ることなく街に繰り出した。街はちょうどご飯時で賑わいをみせる。

「何食う?」
「んー…上手いのだったらなんでもいいよ」
「それが一番困るなぁ…。んじゃ、俺の行き付けの店でいいか?」

エドが頷き、明確な目的地へとは3人は足を進めた。ふと、エドとアルはずっと気になっていたことを思い出し、疑問をぶつける。

「そういや、あんたいつから大佐の下についたんだ?」
「んー……五年以上は経ってるか?」
「そんな前から軍にいるんですか!?でも、僕達とはこの間が初めて会いましたよね?」
「そうだな。噂程度に聞いてはいたけど、いつも出払ってるか誰かさんの代わりに中央にいるかですれ違いになってたんだよなぁ」
「お前も苦労してんなぁ。あ、中央っつったらヒューズ中佐とかアームストロング少佐とかいんじゃん」
「そうそう。知り合いなのか?」
「あぁ…まぁ…」
「まぁ、少佐はなぁ…」

顔をひきつらせるエドにリオンも同様に頷く。アルも否定することはなく苦笑している。

「ガキ扱いばっかするしな」
「そうそう。――って、そういやお前、何歳だよ。見た目だいぶ若いよなー。それに五年以上いんだろ?大佐みたい童顔か?」
「お前言うなぁ。いっても22だっての」
「「22ぃ!?」」

事も無げに言うリオンに2人は驚愕した。軍のことをちゃんと把握しているわけではないが、22歳の若さで中佐に昇り詰めるのは並み一通りではないことは十分に分かる。

「マジで大佐出し抜けれるんじゃ…」
「あぁ見えてもちゃんと仕事やってるからな、あの人。悔しいけど到底敵わねぇよ」
「伊達に大佐してるわけじゃないんですね」
「あ、そういやお前!大佐のこと『ロイ兄』って――」

エドがふと思い出した一番聞きたかったことを質問しようとしたら女の悲鳴が遮る。3人とも声の方を向くと、男が女の腕をナイフで浅く切りつけていた。咄嗟にリオンは拳銃を構えて駆け出した。しかし、軍服を着たリオンに気付くと男は女を盾にしながらナイフをリオンに突き付ける。

「それ以上動くなよ…。動けば女を殺すぜ」

男の言葉にリオンは拳銃を地面に置き、危害を加えない意を伝える為に両手を上げた。勝ち誇ったような男にリオンは舌打ちをして両手を降ろし、その際に剣を確認して小さく笑む。

「彼女をどうする気だ。その前にどうして彼女を切りつけた」
「コイツは俺を裏切りやがったんだ!コイツをどうするだぁ!?決まってるだろ、殺してやる!!」

男の言い分にリオンはハッと鼻で笑う。

「はぁ、『裏切り』ねぇ?女性の『可愛い』行動にいちいち一悶着起こすようなタマの小せぇ男は彼女の方から願い下げだろ」

嘲笑するリオンの声に男が真っ赤になって怒声を上げた。理性を失った男の隙を逃す筈もなく、リオンは男の懐に走り込み居合い斬りの要領でナイフを弾き飛ばした。
女を手早く自分に引き寄せ安全を確保すると、男の溝尾に素早く蹴りを入れる。そして、反射的にくの字に曲がった男の頭に踵落としを入れることで男を沈静化した。

「あのっ、あ、ありがとうございましたっ…!!」

伸した男の身柄を拘束しているリオンに女が震える声で礼を告げ、安心したのか泣き出してしまった。それにリオンは視線を寄越さずに応える。

「礼を言われるようなことしてない。それよりお前は自分の行動を見直した方がいい。今回の件はこいつだけが悪いわけじゃないだろ」

その言葉に女の嗚咽が小さくなる。リオンは立ち上がってハンカチを取り出すと女の腕を止血する。

「ま、腕の治療がてら頭の整理してこい。こいつの聴取が終わったらあんたにも聴取があるからな。協力を頼む」

止血を確認して女の顔を下から覗き込み涙を拭ってやると、近くの者に女を病院に連れて行ってやるよう手配する。そこでやっと2人が姿を現す。

「高みの見物かよ」
「僕も手伝おうとしたんですけど…」
「いやーお手並み拝見?」

アルがすいませんと謝る傍ら、エドはニヤリと笑う。それにリオンは溜め息を吐いた。
犯人を憲兵に引き渡し、仕切り直す。が、

「中佐、強いんですね」
「まぁ、軍人だしな」

「いかん、仕事に戻らなければ」
「あら、ほんと?寂しくなるわ…。また来てくださいね」

3人に聞いたことのある声が耳に入ってきた。見るとやはりというか、ロイの姿があった。

「い、いや、俺は何も見てない」
「だよな。俺は飯を食いに来たんだ。行くぞ、エルリック兄弟」
「ん?バーンズに鋼のじゃないか。珍しいな。仕事はどうした?」
「それ、俺のセリフなんですけど」
「大佐、みんな書類の山に埋もれてましたよ」
「そうか……」

ロイが眉間に皺を寄せ唸ると、不意にリオンの首根っこを掴み司令部へと歩き出す。

「さぁ、仕事するぞ」
「っざけんな!俺は午前中仕事したんだ。飯くらい食わせろ!」
「大佐の鬼ーっ!!」
「いくらなんでも可哀想だろー!」

しかしロイは気にも留めずに足は止めない。リオンは溜め息を吐いて諦めた。

「悪いな、エルリック兄弟。また奢る」
「いや気にすんなよ。仕事頑張れ」
「また遊びに来ますね」

手を振るアルにリオンも小さく降り返す。そして兄弟は仲良くロイとリオンに背を向けて歩き出した。それをリオンは懐かしむような、哀しいような微笑みを浮かべて見ている。

「羨ましいか?」

ロイの問いにリオンの表情に陰がさす。

「…別に。俺はもう…兄チャンのことは…」

見上げた空は泣き出しそうだった。





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