無知

ハボックが苦笑いを浮かべている。

「分かったからそんな怒るなって、リオン」

表情こそは変わらないものの、怒りが雰囲気で伝わってくる。ほかの者もみな同じ意見のようで黙っている。

「タッカー殺しに力を入れるのは分かるけど、こんな膨大な書類を置いていくか?」

苛立ちを抑えるようにはーっと息を吐く。終わった書類をまとめて立ち上がる。

「気分転換がてらに身体動かしてくるから。お前らも働き過ぎんなよ」

持った書類が胸ほどあるが難なく抱え、姿を消した。張り詰めた空気が一気に払拭され、皆がホッと息を吐く。
身体を動かすことで苛立ちが消えるといいが……。
と皆、思うことは一緒であった。



















ロイがほとんど姿を見せず事件も好転しないまま、数日が経ったある日――。

「第五研究所が爆破!?タッカー殺しが解決しないうちに…。くそっ…!どうなってんだ…」

ロイの代わりに中央へ顔を出している矢先にそれは起こった。偶然東方司令部から持ってきた残業を遅い時間までしていたリオンとそれに付き合っていたアームストロングが大事を聞き付けた。
普段、冷静なリオンが取り乱すのは稀で、アームストロングは押し黙っている。また、『傷の男』を未だ明るみにしてはいないが、ロイの部下、ヒューズの部下はリオン以外知っており、アームストロングは気まずそうに視線を反らすだけだった。

「……取り敢えず、現場に行くぞ」

上着を持って歩き出す。
けれど、アームストロングは後に続かない。

「………何をしている…。早くしろ」
「…し、しかし…!」

己の武器である剣、銃、ペンダントを確かめると、反論も聞かずに部屋を出ていった。

「待ってください、バーンズ殿!――一人では危険です!」

自分がついて行かないと本気で一人で行ってしまそうな勢いに、アームストロングはすぐに後を追うしかなかった。










「爆発、ね……。っんと、瓦礫の山だな」

苛立ちを隠さないまま、近くの瓦礫を蹴る。
怒りの矛先が己に向くことを避けるためにアームストロングは止めることはしない。

「こんなに暗いのですぞ。調査などとてもできはしないでしょう」

アームストロングの意見は最もだった。
時間は午前1時。
近くに明かりが少ないため、5m先でさえ見えにくい。そのなかで調査もなにもないだろう。

「もし犯人が証拠を残してしまったとしてら回収するとしたら姿が見られにくい深夜。それに出来るだけ回収は早い方がいいだろうからな。この時間がうってつけなんだよ」

瓦礫の山を平然の進んでいくリオンにアームストロングは慌ててついていく。

「俺は奥に行く。少佐はこの周辺の所々原形が残っている部屋の資料を手当たり次第に集めろ。何かあったら、すぐに呼べ」
「はっ!」

アームストロングが敬礼をして、それぞれ調査を進めた。
リオンが進んで行くと、奥から小さく声が聞こえた。それに気が付いて少しずつ距離を縮める。

「――った、あった。燃やし損ねた資料。残ってちゃ不味い資料が残っちゃうなんて、運が悪いよねぇ」
「あなたがしくじるなんて珍しいわね」
「ほんと。鋼のおチビさんがいなきゃ――っ誰だ!」
「それはこっちのセリフだ」

運良く残っていた壁に残骸に身を潜ませて会話を盗み聞きしていたが、気配を読まれた。身を潜めたまま銃を構え、壁から顔を出し声の聞こえた方へ耳を澄まし、目を凝らした。
もちろん、リオンには2人の姿は見えないからだ。

「(声からすると、少年と女性…か?)」
「誰かと思ったら、疾風の錬金術師か」
「……!…見え、るのか?」
「当然よ。ほら。こんな風に、ね!」

女の声と共になにかがヒュッと空を切る音が聞こえた。そのまま壁に身を預けていたが、背筋の凍るような殺気に咄嗟に横にずれる。と、さきほど自分の身を隠していた壁が砕けた。
しかし、攻撃をされたおかげで場所が分かり、その一直線上に銃を向け素早く2発発砲する。

「…外したか…」

銃弾が肉を抉る音を発することはなく、2発とも無機物を抉るそれしか聞こえなかった。再度、風を切る音がして、反射的に回避したがそれも虚しく機械鎧の左肩部分が抉られる。
そして、銃声を聞き付けたアームストロングが駆けつけたのは2人の気配が消えてからであった。

「バーンズ殿!ご無事ですか!?なにがあったのです!?」
「多分、犯人だ。燃やし損ねた資料がどうとか言ってた」

アームストロングが驚愕に目を見開く。
リオンは銃をしまい、元来た道を歩き出す。それを慌てて後を追った。

「バーンズ殿!犯人はどこ行ったのですか!?追いかけなくても――」

アームストロングの問いにリオンは足を止め、向き直る。

「あいつらは夜目が効く。事実、あの暗いなかで俺の二つ名を言い当て、正確に心臓を狙った。このまま追ったら分が悪い。むしろ、……逃げてもらって助かった、ってとこだな…。あいつらの手掛かりにもなる資料はもうあそこに残ってないだろうし、これ以上は無駄だ」

そう言うと正面を向いてまた歩き出す。しかし、疑問は消えない。

「心臓って……怪我は!?」
「なんとか避けた。けど、左肩が上がらない。だから、助かったって言ってんだ」

足を止めることなくそう言うと、ずんずんと進む。アームストロングは慌ててリオンについていくが距離が縮まることがない。
足場の悪い瓦礫を見えないまま進む恐怖は、きっと生身の脚を持たないリオンには察し難いのだろう。捻る心配も瓦礫に挟まれる心配もない足を緩めることはない。

「(機械鎧を抉るほど強度をもつ武器……。それにあまり知られていない筈の俺の二つ名を……)」

謎は深まるばかりだった。






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