密談

2人しかいない事務室を蛍光灯が冷たく照らしている。

「ショウ・タッカーが殺された?」

リオンが問い掛ける。重々しく頷くヒューズにその事実を認めざるを得なかった。

「犯人は?捕まえたのか?」
「いや、まだだ。詳しいことも分かってない」

溜め息を吐くヒューズを横目にリオンは考え込む。
合成獣研究の第一人者と言っても過言ではないタッカーが殺された。合成獣の改良が進められる今、それを失うのは政府にとって不都合。

「反乱分子か、それとも……」

難しい顔で黙り込んだリオンの肩をヒューズが軽く叩く。

「なんも証拠がないんだ。いろいろ考えてもしょうがないだろ」
「…………。取り敢えず、事件の詳細を――そういえば、エルリック兄弟がタッカーに会いに行ったって」
「あぁ、それは大丈夫だ。不幸中幸いか2人が家を出た後だったからな」

その言葉に不謹慎ながらもリオンはほっと息を吐く。そして納得したように頷いて頭を掻く。

「はぁ、どーりで俺が戻って来たとき大佐も少佐も中尉もいないわけだ」
「あぁ、3人ともそのことについて少し話しているところだからな。――っと、大佐から伝言だ。この事件は私達に任せて通常勤務しろ、とのことだ」
「俺だけ除け者か…。まぁ、それで事足りるってことだよな」

リオンは不服そうに顔を歪め、ヒューズに背を向けて部屋を後にした。
その背を見届けるとヒューズの身体から緊張が解けた。
はー、と長い息を吐いて近くのソファーに座る。

「悪いな、リオン。俺もロイもお前を危険なことに巻き込みたくないんだよ」

『傷の男』が捕まえないことには巻き込んでしまうだろうが。
小さく呟いたヒューズの言葉は誰の耳に届くことなく、虚しく部屋に響いた。
































少ししてロイが談話室に入ってきた。

「どうだった?」
「多分、上手く誤魔化せた」

ヒューズの言葉にはーっと長いため息を吐いて、向かいに座る。
目頭を揉んで目の疲れを和らげる。

「なにか進展はあるか?」
「全くだ。タッカー氏と一緒にいた合成獣を殺したにも関わらず、ほかの合成獣には手をつけていない。恐らくあの合成獣が抵抗したか、タッカー氏の近くにいたからだろう」
「やっぱり国家錬金術師か…。本当に…リオンにはいいのか?」
「……あいつはそこまで名は知られていないはずだ。あいつ自身、国家錬金術師を名乗るのが嫌でここ数年二つ名を語ってない筈だ。――とにかく、あいつの耳に入る前にこの件を片付けるぞ」
「…………ロイ」

立ちあがったロイに何か言いたそうに見上げるヒューズの視線を無視するように背を向けて歩き出した。

「お前も、国家錬金術師なんだからな。狙われていることを忘れるなよ!」

堪らず注意を促したが、答えは扉の閉まる音だけだった。





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