戦友の死

傷付いた身体に鞭を打ったのが裏目に出たのか、普段ならもっと早い時間に着けるはずなのに青く広がっていた空が茜色に染まっていた。
リオンは空を見上げて、ヒューズとすれ違いにならないといいがと小さく呟いて足を速めた。








軍法会議所が見えてきて、ホッと息を吐く。茜色の空もとうとう暗くなっていた。

「(ヒューズを殴ったら中央に応援と護送用の人員の申請もしなきゃなんねぇしな…)」

足を進めていると、入り口から右肩口を押さえフラフラと歩いてくる人影が見える。不審な姿に足を速め近付くと見馴れた姿だった。

「ヒューズ!!どうしたんだよ、その傷!?」
「なんでお前がここにいんだよ!?――あー!そんなこたぁ、どうでもいい!ロイは!?」
「国家錬金術師殺しの捜索中…って、どうしたんだよ?」
「軍がヤバいんだよ!――ロイに知らせねぇと!」
「もしかしてその傷、隠蔽のためにーー」
「恐らくな。でも軍の人間じゃなかった」
「…分かった。―――俺が時間を稼ぐ。ヒューズは早くロイ兄に電話してそのこと伝えて」

ヒューズはそのことに強く否定したが、リオンが頑として受け付けない。

「早くっ!最悪、お前だけでも生きてればロイ兄に伝わるんだから!」
「………っ…、分かった…」

渋々ながらリオンを置いて、リオンが来た道を辿った。リオンはそれを確認すると、軍法会議所に向き直り、銃と剣、ペンダントを触って確かめる。
不意にコツ、コツと女性の履く靴特有の足音が聞こえた。
構えた銃の持つ手に力が籠る。

「また邪魔してくれるわね、『疾風の錬金術師』……!」

憎々しげに顔を歪めた女性が姿を現した。また、という言葉に疑問を浮かべていたがハッと気付く。

「この声は……第五研究所の…!」

銃を向けられても動じることはなく、女はフッと微笑を洩らした。

「覚えていたのね。始末をしてしまいたい所だけど……。そうね、――取り敢えずここで倒れていてくれないかしら」
「はい、そうですかって言うやついると思ってんのか」

致命傷になる箇所を避け、数発発砲した。しかし―――

「…なっ……」

女は指を針状に変形させ銃弾を薙ぐと、全て銃弾が2つに裂けて落ちた。リオンが狼狽える姿に笑みを溢す。リオンは銃をしまい、ペンダントの回りに手を翳した。
錬成時特有の光が弾けると、ふわりと風がリオンの周りに集まる。集まった風を右手で飛ばすように払うと女の方へ風が走る。
防ぐことが出来ない風に女は両腕で顔を守ることしか出来なかった。そこへ追撃しようと次は最大出力で風を放とうとした瞬間―――銃声が鳴った。
集中を切らしたことで風が霧散していくが、リオンは気に止めることなく音の方へと駆け出した。
見付けた電話ボックスから軍服を履いた脚が外に無造作に投げ出されていた。近くには少年と思われる背丈の者。
咄嗟に錬金術で岩を錬成し、それを捕らえた。が、その反動で左腕の機械鎧がもげてしまった。

「(そういや、前に整備士に傷んでるって言われたっけか。クソっ)」

小さく悪態を吐いて、跳躍するとリオンのいた場所に女の指が突き刺さる。リオンは無理矢理体を捻って体勢を変えて女の方へ向くと、素早く額と胸元の急所に2発の弾丸を打つ。
予測できなかった攻撃に女はそのままパタリと倒れた。
綺麗に着地をして電話ボックスに足を進めようとしたら、腹部に痛みが走った。どうやら体を捻った際に縫っていた傷口が開いたらしい。
出血が酷くならないよう傷口を押さえながら電話ボックスに近付くとやはり、そこには血溜まりをつくったヒューズの姿があった。

「おい、嘘だろ……?起きろって…」

リオンはヒューズの足元に膝を着いて身体を揺さぶる。しかし反応は一切ない。

「起きろって!お前の嫁さんと娘さんがっ…帰りを待ってんだろ!!起きろよ…っ…起きろってぇ!!」

激しくヒューズの身体を揺さぶっていると揺らぐ視界。腹部に走る激痛にリオンの身体が倒れる。

「っとに、手間をかけさせて。殺したいくらいよ」
「…な、で……おま…が、いきて……」

霞む視界に映ったのは確かに急所を撃ち抜いたそれ。血が足りない頭で考えていると、ボコッと岩の壊れる音がした。

「あーあ、もしかして殺っちゃった?」
「まさか。急所は外してるわ」
「ならよかった。コイツもこんなとこに遭遇しなきゃ痛い思いしなくてすんだのにねぇ」
「……おまえ、も…もしか、して…だい、ご……けんきゅう、じょ…の……」
「ご名答ー」

楽しそうに笑うもう一人の犯人をこの目で焼き付けようと目を凝らすが身体は意思に反して瞼を下げる。
悪あがきに腕を伸ばしてみたが、空を掴み、ガシャンと機械鎧が無機物な音を立てるだけだった。





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