「…なんの話ですか」
「この花壇も、その呼び出した子にやられたんだろ」

「――っ」


バレてる。そう思った。
あたしが言うなといったことはマキは絶対言わない。だからマキが言ったとは考えられない。
やっぱりさっきの、用務員さんとのやり取り…「誰かにやられたのか」と聞かれて頷いてしまったあのやり取りを、見られていたのだろうか。

いや、幸村先輩のことだから、きっととっくの前に気づいていたのかもしれない。


「それだけじゃないよね」
「さぁ」
「他にも、物をかくされたり…色々嫌がらせをされてるんだろう?」
「なんのことだか、」

「香奈ッ!!」


今まで静かに冷静に問いただしていた幸村先輩の声が怒鳴り声に変わって、あたしは思わず肩を揺らした。


「…っ怒鳴ってすまない」
「い、いえ」


逃げようと思った。
逃げるなんて言葉は大嫌いだけど、このままだと墓穴を掘るのは確実。
聞き出される前にばっくれよう。

そう決心してあたしは勢いよく立ち上がった。


「っ、ちょっと待った!」

―パシッ


そしてさぁトンズラしようと思ったとき、あたしが走りだすより先に幸村先輩が立ち上がりあたしの腕を思い切り掴んだ。
思惑バレた?


「君、膝小僧を擦り剥いてるじゃないかっ!」
「…ああ」
「ああじゃないだろ!…俺が手当てするから保健室に行こう」
「せ、先輩はもう部活に戻ってくだ…」


あたしが最後まで言い切る前に、幸村先輩はあたしの腕を引っ張って行った。





花言葉 08





最悪だ。
幸村先輩には嫌がらせのことが何となくバレてるし、あたしのせいで部活時間は減る一方だし、廊下ですれ違った用務員さんは無視しちゃうし(せっかく親切にマリーゴールドのことを教えてくれたのに)、あたしは先輩に手当てをしてもらってるし。

最悪だ、よ。


「はい、手当て出来たよ」
「…ありがとうございます」
「で?これも呼び出した子にやられた?」
「……」
「……香奈、」


そういえば、さっきも名前を呼び捨てで呼ばれたな。二回目だ。
幸村先輩は優しくあたしの名前を呼んだかと思うと、次は肩をポンポンと叩いた。
あ、なんかこれ…マネージャー初日、倒れて目が覚めたあとの保健室の雰囲気と似てる。


「―お願いだ香奈、教えてくれ。誰かに嫌がらせされてるんだろ?」
「……」
「お願いだ!…前も言ったけど、俺は何故か香奈のことが…放っておけないんだ」
「……っ」
「無理しないで。俺に…香奈を守らせてくれよ」


もう無理だった。


「…!香奈、」
「っうぅ、うえぇ‥」


幸村先輩の強い意志に、あたしは負けた。
気付いたらボロボロと涙が流れていた。


「先輩のアホ!せ、せっかくあたしが我慢したら、まるく納まってたのに!」
「香奈がツライのを我慢して、それでまるく納まったなんて言わないよ」


逆ギレして怒鳴ったあたしの言葉を間髪入れずに否定する幸村先輩にあたしは思わず口詰まり、はぁ、とため息を吐きながら顔を両手で覆った。
その理由は簡単で、幸村先輩のかっこいい言葉に思わず赤くなった顔を隠すためだった。


「先輩、イイ男ですね」
「何だい、急に」
「そりゃモテるわけですよ」
「…嫌がらせ、俺のことを好いてくれている子にやられたんだね?」
「……」


あたしは先輩の質問に何も答えなかったけど、先輩からしたらあたしの反応を見たらバレバレだろう。
そう思ったあたしは、例の先輩にされたことをポツリポツリと話し始めた。


「一番初めに、机にゴミが入ってて…マキが犯人捜ししてくれたんですけど結局クラスの子じゃなくて、いつも一番に教室に来る子の話によると三年の上履きはいた人が教室から出てくるのを見たって…」
「三年生が犯人なんだね」
「……」
「他には?」
「物隠されたり…教科書とかノートのあたししか気付かないような所に悪口書いてたり…、そんなことが続いたあと、呼び出されて幸村くんに近づかないでと言われました」


足を組みながら腕を組んで、睫毛を伏せていた先輩が不意に視線を向けてきた。心臓がドキリと鳴って、思わず視線を逸らす。
おそらく、その呼び出した人物の名前を言えということだろう。
でも言わない。
幸村先輩のことを好きな人のことをあたしが幸村先輩に言っちゃダメだ。


「あたし、マネージャーやめませんって言ったんです。そしたら、その日の内に花壇が荒らされてました」


あたしが話せるのはここまでだという意味も込めて顔を俯けると、向けた視界に影が重なって、そうかと思うと大きな手で頭を撫でられた。前にも一度撫でられたことある。
幸村先輩の手だ。


「俺に話してくれてありがとう」
「せんぱ、」

「マネージャー、辞めないって言ってくれてありがとう」


綺麗な花のように笑う先輩に、あたしの気持ちを汲み取ってそれっきり詮索してこない先輩に、再び泣きそうになりながらも顔が紅潮していくのが分かった。
あの先輩の、幸村先輩を好きになった気持ちがちょっと分かった。

先輩、やっぱりかっこいいですよ。



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