「なんか香奈ってあの花壇が1年のときから好きだったみたいで」
「だけど1年の…そうです、冬に急に花壇の手入れがされなくなったとかで」
「そう、香奈がかわりに花壇の手入れを始めたんです。花が可哀想だって」
「だからあのマリーゴールドは香奈が大切に育ててたんです。なのに…」
「ムカつく!一体誰が花壇を荒らしたんでしょうか…」


マキちゃんにあの花壇と香奈ちゃんの関係を聞くと、マシンガントークで説明してくれた。
彼女の話によるとあの花壇、一体誰が手入れしてくれているのかと思っていたけど…それは香奈ちゃんだったらしい。
そしてそれを、心ない人に荒らされたんだ。



昨日のことだ。
テニス部のみんなと帰ろうと校門へ向かっていると、花壇を前に立ちすくんでいる香奈ちゃんを見つけた。
いつも着替えは彼女たちに先にさせていて、いつも俺たちより先に帰っているはずなのに、立ち止まって一体何をしているんだ。
そう思って、俺は二人に近寄った。

そこには、めちゃくちゃにされてしまった花壇と虚ろな目でそれを見つめる香奈ちゃんがいた。

彼女たちに近寄ると、それに気付いたマキちゃんとは反対に、花壇を見つめる彼女は俺が近寄ったことに気付いてないようだった。








「どうしたの?」

「―え、あっ…幸村先輩」


ぼんやり花壇を見つめていたあたしの肩に幸村先輩の手がおかれて、あたしは初めて後ろに人が立っていたことに気付いた。
幸村先輩はあたしに向けていた視線を一瞬花壇に逸らしたあと、再びあたしに向けた。


「この花壇…」
「いや、あの」
「誰かがやったの?心当たりあるの?」
「―――っ」


一瞬、今日、屋上にあたしを呼び出した先輩の顔が浮かんだ。


「――ッお前、覚えてろよ!!」


おそらく、間違いなく、あの人だと思った。
彼女はあたしのことを友達に調べてもらったと言っていたし、あたしが毎日この花壇を大切に手入れしてたことも知ってるはず。
これはあたしがマネージャーを辞めることを断ったから行った嫌がらせなんだ。


「きみは…何か、この花壇と関係」
「―し、知りませんッ!」


あたしに花壇のことを聞いてくる幸村先輩にあたしは半ば叫びながら嘘の返事をすると、マキの手を掴みながら学校を飛び出した。

一瞬、幸村先輩に言ってしまおうかと思った。
そうしたら幸村先輩のことだから何か対処をしてくれるかもしれない。
こんな嫌がらせ、なくなるかも知れない。そう思った。


「…好きなの」


でも、だからこそダメだと思った。
あたしがあの先輩を庇う義理なんてないんだけど、でも、幸村先輩にだけは…他の先輩に言ったとしても、幸村先輩にだけは言ったらダメだと思った。

それだけはフェアじゃないと思った。







「なんか今日、朝練に行ったら幸村先輩に色々聞かれて。香奈と花壇の話しちゃったんだけど、良かった…?」


しかし、そんなあたしの思いも知らずにマキがそうカミングアウトしてきたのはその翌日の昼休みだった。


「い、言っちゃったの?」
「ああっ、やっぱりダメだった!?…ごめんなさい」
「あ、いや…」


マキが話したのはあたしと花壇の関係だし、あの先輩のこと…嫌がらせのことは話してないみたいだから、セーフかな?
でも幸村先輩に色々聞かれることは確かだろうな。気を付けよ。


「香奈…嫌がらせ、エスカレートしてない?大丈夫なの?」
「うん、大丈夫大丈夫!」


本当は大丈夫じゃない。確実に嫌がらせはエスカレートしてる。昨日の花壇の件でも実はかなり堪えた。
だけどそれをマキに嫌味たらしく言ったところで何も変わらないということは目に見えてるし、むしろヘタに言い過ぎてもあたしをマネージャーに誘ったマキが責任を感じかねない。

これは、あたしが一人で処理するのがきっと正解なんだ。





花言葉 06





「あんた、まだ辞めないの?」


その放課後、昨日の今日であたしは再び例の先輩に屋上に呼び出された。しかも昨日と違って今日は先輩の友達らしき数名も同伴で。
昨日既に殴られ済みということもあって、正直な話ちょっとビビッてる。
自然と出てしまう手の震えを抑えるために拳を強く握ると、痛みがじわり広がる。


「や、やめません」


ああ、声の震えは抑えられなかったか。


「は?やめません、じゃねーよ」
「昨日チカに聞いたんでしょ?」
「この子、本当に幸村君のこと好きなのよ。自分以外の女の子に、近寄ってほしくないんですって」


早口にそう言ってのけたボブヘアーの柔らかい口調のその人は、怖いと思った。
そんなボブヘアーの先輩に気持ちで負けてしまわないようにグッと睨み返す。


「…なに、睨んでんのっ!」


―ドンッ!


「っ痛、」


この人が怖いというあたしの予想は当たっていたようで、あたしの目が気に入らなかったらしい先輩はあたしを力任せに突き飛ばした。そして倒れた拍子に膝小僧をコンクリートにぶつけてしまい、足からは真っ赤な血が流れた。

なんで、なんであたしがこんなめに。
足から流れる血とあたしを見下ろす先輩たちをみてそう思った。

だけどここで「じゃあ辞めます」なんて素直に従ったらなんだかこんな人たちの脅しに屈するみたいで、逃げるみたいで、それはそれで腹が立つ。
そう、あたしは負けず嫌いなんだ。
ズキズキと脈打つ足を引きずりながら立ち上がると、大きく息を吸い込む。そして、


「マネージャー、辞めませんっ!…少なくとも、あなたたちのためには絶対に!!」


怒鳴り声に近い状態で叫び終わるのとほぼ同時に頭を深く下げて一礼し、屋上を飛び出した。後ろからは先輩たちの「待てよ!」という声が聞こえてきたけど、振り向かなかった。



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