「聞いてよ香奈!あのね、柳生先輩がね、今度の休みにお茶しませんか、だって!」
「す、凄いね…」
「はぁ〜あたし今超幸せ。マネがんばろーね!」


いつのまにそんなことに…でもマキ、本当に幸せそうだ。



昨日、あたしは幸村先輩に駅まで送ってもらった。
鞄は自分で持つと言ったのに持たせてくれなくて、しぶしぶあたしは手ぶらで歩いた。
あたしの隣を歩く幸村先輩はやっぱりどうしたって綺麗であり、ついさっきまでこの人がすごく苦手だったのに、むしろ今でも一緒に居るのは気が引けるのに、ついドキドキしてしまうあたしがいた。

会話は、あんまり覚えていない。
緊張してたし、先輩だし、何を話していいのか分かんなくて。
成り行きに任せてたところがあったから。
だけど、倒れたあたしが目覚めてからの幸村先輩はやっぱり昨日みたいな毒々しさというか、嫌みっぽさはなかった。


「幸村先輩、って、モテます?」
「ふふ、さぁ。どうかな」


だからかもしれない。
正直、幸村先輩との会話はあたしも楽しかった。






「ねぇ、チカ。あれって幸村くんじゃない?」
「え、」
「うっわ、女といるじゃん!つーかあれ誰よ?」
「幸村くんが持ってる鞄のライン赤だね。てことは二年生かな」
「チカ、ヤバイんじゃね?」
「―――っ」


「あたしがあの二年、誰か調べてやろーか?」



あたしもマキも、彼女たちも。誰も悪くないんだよ。





花言葉 04





マネージャーをやり始めて一週間程経ったとき、それは突然始まった。


「あはは、は」


こういうことって本当にあるんだなぁ。漫画の世界だけだと思っていたよ。
それとも漫画の世界のやり方を真似してるとかそういうことなのかな。
って、今はそんなこと冷静に分析してる場合じゃないよ。

これちょっと…エスカレートしたらヤバくない?


「おはよ、香奈!何見てんの…って何コレ!?」


マキが驚くのも無理がなかった。
いつも通りに学校へ来て席に座り、教科書を入れようとしたあたしが机の中を覗くとそこには…いっっぱいの、ゴミが入っていた。
そりゃもういっぱい。
もう教科書一冊を入れる隙間も無いくらいみっちりゴミが入っているのだ。


「え、なに、いじめ?これいじめ?」
「さぁ…」
「ひ、ひっどぉーい!」


その後、HRが始まるまでにあたしとマキでゴミを片付けた。
さらにその後マキがクラス内で犯人探しをしてくれたけど、分かったのはクラスの子が犯人ではないということだった。
さらに…


「あのね、あたし今日一番に教室来たんだけどその時には既に鍵開いてて、見たことない人とすれ違ったんだよね。上履き的に三年だったんだけどさぁ」


クラスの女子にそんな情報まで頂いてしまった。
参ったな…同学年ならともかく先輩となるとこれはいじめというより脅しだ。
これはテニス部のマネージャーをやり始めてから始まった。
マキがやられてないということは、テニス部のマネをやること自体が気に食わないとかじゃないみたいだ。

てことは、マネをやり始めて関わりを持った人で“あたし”が一番よく話す人…。


「放っとけないんだよね」


たぶん幸村先輩が原因だ。
三年生の、あたしと幸村先輩が仲良くするのが気に入らない人がやったんだ。そう、確信した。
しかし、目星はつけども三年の先輩が相手ではどうすることも出来なかった。
その日の五限目の体育から帰ってくると、制服がなくなっていた。
仕方がないのであたしは先生に制服を汚したと嘘をついて体操服で過ごした。
うーん、これはちょっと、マジで困った。


「あーもームカつく!香奈に嫌がらせしてんのは一体誰なのよ!」
「ほんとにねぇ」
「ねぇ香奈、柳生先輩とかに相談してみる?」


ねちっこい嫌がらせが数日続いた後、痺れを切らした風のマキはそんなことを提案してきた。
それに対してあたしはフルフルと首を横に振る。
だって確かにこの嫌がらせがテニス部に関係してるのは明らかだけど、だけど100%じゃない。


「マキがなにもされてない以上なんとも言いがたいでしょ。とりあえずもう少し様子見てみるよ」
「うっ、…分かった」


そして、犯人が向こうから現れてくれたのはその日の放課後。


「……」


放課後になったので部活をしに行こうと下駄箱へ行けば、なんと靴を隠されていた。
しかもご丁寧にローファーと運動靴の両方ともを。

…部活に行くなってこと?


「香奈、あたしのローファーでよかったら貸そうか?」
「そうしてもらえるとありがたいよ」


まったく…ここ毎日、よくこれだけの嫌がらせを思いつくよね。さすがに腹立つわ。
文句があるなら面と向かって言ってほしい。そうしたら闘えるのに。
そんなことを考えながら、あたしはマキに貸してもらったローファーを履いて花壇へ向かった。

そう、花壇へ。
マキが放課後になるとテニスコートに真っ直ぐに向かうのに対し、あたしは必ず部活前に花壇へ行って花に水やりをする。
この花壇に咲いてる花は、マリーゴールド。
咲いたときに図鑑で調べて初めて植えられていた花の種類を知った。


この花壇は、去年もとても綺麗な花を咲かせていた。
だけど、それを咲かせたのはあたしではない別の誰かだった。

あたしが入学した時、この花壇はきちんと手入れされていた。事務の人が育ててるのか美化委員の人が育ててるのかは分からなかったけれど、とても綺麗な花が咲いていたのだ。

しかし、ある日その手入れがピタリとなくなった。
それはあたしが一年のときの冬で、本当に突然だった。気付けば今まで一度も生えたことがなかった雑草が生え、土も乾いて水やりもされてないようで。
理由も分からなかったけれど、そのままにしておくことが出来なかったあたしは今まで手入れしていた人の代わりに水やりなどをするようになった。

それが今でも続いている。
テニス部のマネージャーをやり始めても、これだけは欠かすことが出来ない。

そして、そんな、花壇に水やりをしているときだった。


「ねぇ」


おそらくあたしへのものと思える呼びかけに振り向くと、そこにいたのは。


「あんた、太田香奈?」


三年の上履きを履いた黒髪セミロングの人だった。


「…そうですけど」
「ちょっと、来てくれる?」


恋する女の子って怖いよね。



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