えーと、あれ?

あたし何してたんだっけ。ここは家…じゃない。なんであたしはベッドで寝てるんだろう。ここどこだ。


「…………っあ!」


思い出した!
あたしは確かマネージャーの仕事をしてて、なんか意地になってるうちに頭がクラクラしてきて…た、倒れたんだ。

今さっきの自分の状況を思い出したあたしは、ガバッと思い切り起き上がった。


「―うっ、つ〜…」


その刹那、ツキリと頭に痛みが走る。
あーれ、なんだこれ。
左手でガンガン鳴る額を押さえつつ、今度はゆっくり起きて周りを見渡す。ここはあれだな、保健室だ。
あたし…無茶して倒れて、誰かに保健室に運んでもらったんだな。
あー恥ずかしい。何してんのまったく。
せっかく幸村先輩を見返そうと張り切ったのに、迷惑かけてちゃ意味ないじゃん。
そんな自己嫌悪に浸りながら、窓の外に目をやる。
外はまだまだ日が照っていて、夏の今では外を見たくらいで時間をはかることは出来なかった。


「あ、起きてる」


マキのやつ心配してるだろうなーとか考えながらボンヤリしていると、カーテンを開ける音と共に例の中性的な声が聞こえてきた。


「わ、幸村先輩…!」
「寝てろ」

「…はい」


マキの登場とかはちょっと予想してたけど、まさか幸村先輩が登場するとは思ってなかったから驚いて思わず飛び起きた。のも束の間、すぐに寝てろとの命令が下った。


「鞄と着替え持ってきた。今日はこのまま帰っていいよ」
「あ、あの…先輩」
「言い訳無用」
「…すいません」


やはり怒っている風の幸村先輩に、あたしはしゅんとなる。
迷惑かけた申し訳なさ半分、見返してやれなかった悔しさ半分。


「熱射病だって。当たり前だよ、こんな暑い日に外でろくに水分取らずに働いてたんだから」
「すいません」
「だいたい何をそんなに意地になって………て、俺のせいか」


ごめんね。
そういいながらあたしの頭を撫でてきた幸村先輩に、何故だか泣きそうになった。なんかあたしって、バカだなぁ。


「去年にね、立海テニス部マネージャーって肩書きが素敵ってだけでマネやってた子がいて。マネジメントされるどころか迷惑かけられたんだ」
「はぁ…、」
「その子にはもともとやる気がなかったんだよ。君もそんな子なら、いらないと思ったんだ」


あたしは思わず俯く。元々半端な気持ちでマネージャーになったことは事実だ。
それはとても…真剣に部活をしているこの人達にとても失礼だと思った。恥ずかしいと思った。


「でも、俺の言葉に臆するんじゃなくてやる気出してくるなんて、香奈ちゃんてもしや負けず嫌い?」
「…お察しの通りです」
「ははっ、そういう人間は嫌いじゃないよ。だけど、無理して迷惑かけてちゃ同じことだ。…挑発したのは、俺が悪かったけど」
「挑発にのって意地になる方が悪いんですよ。反省してます…」


あたしはぺこりと頭を下げて、もう一度きちんと謝った。
すると幸村先輩は初めて嫌みじゃない優しい笑顔を向けてくれて、思わず心臓が脈打った。
…これは不可抗力だよね。


「もう起きれる?」
「あ、はい」
「じゃあ帰ろうか。駅まで送っていくよ」
「…えっ?や、いい、いらないですそんなの。先輩は部活に戻って下さい!」

「君を送った後、また学校に戻るから大丈夫だよ」


ただでさえ部活中に迷惑かけたのに、幸村先輩の練習を邪魔するなんて滅相もない。
そう思った全力で拒否したのに、幸村先輩はあたしの鞄を持ったまま一向に引き下がらなかった。


「あ、の…ごめんなさい」
「香奈ちゃんって、大丈夫じゃないのに大丈夫って言っちゃうタイプでしょ」


なんか色々バレてる。


「俺、なんか分かんないけどさぁ…放っとけないんだよね、香奈ちゃんのこと」


保健室で目覚めてから、ずっとボンヤリしっ放しだった視界が急にクリアになる感じがした。

そういえば幸村先輩、さっきからあたしのこと“香奈ちゃん”って呼んでる。マキと同じようにあたしのこと、名字じゃなくて名前で呼んでるなぁ。





花言葉 03




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