花言葉 02 「俺の推測によると、彼女はどうやら先程から精市を見ているようだな」 「あー…太田さんのこと?あの子ね、俺に惚れちゃったんだよ」 「あれは見ているというより睨んでいるという表現が正しいな」 「……」 そんな会話を幸村先輩と柳先輩がしているなんて微塵も思っていないあたしは、今日一日、幸村先輩にガンくれながらもこれ見よがしに完璧に仕事をしていた。 マネの仕事内容は昨日きっちり覚えてきた。紙にメモして授業中に復習だってした。 切原には慣れてからでいいと言われたんだけど、一日でも早くゲームの審判が出来るようにと部室に置いてあった本でテニスの試合のルールも暗記してきた。徹夜で。 そんな状態でマネージャー業に取り掛かったあたしは幸村先輩からみても完璧なはず。目的とやる気が結びついてるというマキにだって負けてない自信がある。 どーだ、幸村先輩!フフン。 「つ、疲れたよぉ〜…。あたし的にテニス部のマネージャーは充分体育会系!」 「マキはちょっと休んだら?」 ヘトヘトと地面にへたれ込むマキにそう提案してやると、彼女は一瞬パァと瞳を輝かせた。 だってマキって基本的に運動しない子だから、こんなに働いたりしたらかなりしんどいはず。 だけどあたしの提案に嬉しそうにしたのは一瞬だけで、すぐにブンブンと首を振った。 「や、ダメだよ!」 「なんで」 「だって香奈のが絶対疲れてるよね?あたしは涼しい部室でドリンク作ったりタオル畳んだりで外に出るのは柳生先輩にドリンク渡すのとボール拾いだけだけど、香奈は倍は外にいるよね?」 それは確かにそうだった。 今日も夏日で暑い中、ドリンクを外で休憩する部員に渡すのはあたし。 太陽の下、タオルを水道で洗うのはあたしだし、それを干すのもあたし。 あとは昨日ほぼ徹夜で覚えたテニスルールで拙い審判をやりながら、一年とボール拾いを行うのももちろんあたし。 マキが丸投げした仕事をあたしがやってるとかじゃあない。あくまであたしの意志で、幸村先輩に対する意地のたまものだ。 …まあとにかく、マキより倍程外に居るのは確かだ。 「香奈が休んできなよ!」 「あー…いや、いい。マキが休んでて!」 そう言うとあたしは、マキに止められる前にボールを運びに行った。 「(…確かに、頑張り過ぎかなぁ)」 そう、ただの意地。 昨日幸村先輩に散々言われて、それが図星だったのが悔しかった。 「太田さん、」 幸村先輩に対する、ただの意地なんだ。 「もしかして君、一度も休憩してない?」 後ろから、幸村先輩の声が聞こえた気がする。そう思い勢いよく振り返ったときだった。 ―あれ、なんか頭がクラクラして…ボーっとする。 「ゆき…、ぱ…ぃ」 視界がぐにゃりと歪み、両手に持っていたかごが地面に落ちてテニスボールが散らばった。 そして、あたしの体もゆっくり地面に倒れる。 「―ッ太田さん!?」 やっぱり、幸村先輩の声。 → |