誰かが言った。
恋に落ちるのは、至極簡単なんだと。
何故なら恋に落ちるのに理由なんか無く、そして、恋に落ちるのは思考の働かない、一瞬のことだからだ。


「香奈はさぁ…柳生先輩って知ってる?」
「…え」
「あたしと同じ風紀委員の人なんだけどね、メガネなんだけどね、七三なんだけどね、超かっこいいの!!」
「…へぇ」


マキは惚れっぽい。
これは有名な話だ。

だから、あたしはまた始まったなぁとかそれくらいの気持ちでマキの柳生先輩話を聞いていた。
正直な所、柳生先輩は全国常連の立海テニス部のレギュラーに入ってるだけあって有名なので、マキが話してくれた事の七割は既に知っていた。言わないけどね。


「でね?あたし今度は超本気なわけですよ!」


それ、マキが好きな人をつくる度に毎回聞いてるよ。


「つーことで、テニス部のマネさんとかしたいなー。なぁんて思ってんだけどぉ…お願い!香奈も一緒にやってくんない?」
「あー、はいはい。…ん?」
「え、マジでぇ?やった、やったぁー!!」


今、マキ、なんて言った?


「じゃ、早速幸村先輩の所に頼みに行ってくるね!」
「は、ちょ、マキ!待ってちょっと待って!」
「待たなーい」
「こら!」




そんなわけで。思い立ったら即行動の友人のせいで、テニス部のマネージャーをすることになりました。





花言葉 01





「今日からマネージャーよろしく。やってもらうのは全国までの間だけだから」
「…お願いします」
「よっろしくお願いしまーす!」


テニス部(マネージャーとして)入部初日。
全国大会が終わるまでの間だけならという条件付でマネージャーになることを了承されたあたしたちは、マネージャーの仕事を教わるためにテニス部部室前に来ていた。
幸村先輩の言葉に元気よく返事をしたマキは、そうかと思えば次の瞬間にはもう柳生先輩の隣に居た。友達ながらあっぱれ。
柳生先輩はわりと堅物だと思ってたのに、マキに対してあっさり笑顔を見せている。
あの子の男に対する行動力を他の事に使えば、すごく世間の役にたつんじゃなかろうかと思う。
そうしみじみ感じながらも、あたしは幸村先輩の方へ向き直る。幸村先輩は、言わずもがなテニス部の部長だ。

そして有名過ぎて、あたしでも知っていることがある。

それは、幸村先輩が最近まで入院していたという事だ。

いつ戻ってきたとか、どんな病気だったかとかは正直そんなに興味もなかったので知らないけれど、たしか重い病だったような気がする。
おそらく退院してあまり経ってないのに、部活に復帰しても、大丈夫なのだろうか…?


「ねぇ、太田さんだっけ」
「あ、はい」
「やる気ないならさっさと辞めてね」


不意に私に近づいてきたかと思うと、にっこり笑顔でそう言った幸村先輩に、あたしは思わず固まる。

今、この人、すっごい綺麗な笑顔で何て言いました?


「あの子、マキちゃん?たぶん柳生狙いだよね」
「…何か問題ありますか」
「あの子にはないよ。きっと彼女は柳生にいいとこ見せようと、頑張って仕事をしてくれるだろうからね」


あたしは幸村先輩をギッと睨む。この口振りだと、どうやらあたしに文句があるらしい。


「だけど君は彼女に引っ張られて入っただけでしょ。とてもやる気があるようには思えない」

「―っそ、」


そんなことない!
…という反論は出来なかった。何故ならあたしは少しそんなことを考えていた。
あたしの目的はマキが無茶しないかを見ることであるから、そこまで真面目に部活をする必要はない。そう思っていた。

だけどそれを、この人は、一瞬で見破ったのだ。


「全国制覇に向けてマネージャーがいると助かるのは確かだし、マキちゃんみたいに目的とやる気が結びついてる子はいいんだけどね。君みたいに、やる気のない子はいらないんだよね」
「……」
「だから、“テニス部の”力になる気がないんなら、マネージャー辞めてね」


再びにっこり。
胡散臭い笑顔を向けてくる幸村先輩に正直吐き気がした。

はい、つまりムカついたんです。


「―や、やる気満々ですよあたしは!何をすればいいんですか?早く仕事を教えて下さい!」


あたしは負けず嫌いなんだ。


「…ふーん。ま、いいさ。今日はどんな仕事があるか説明するから、明日から使い物になるようにしっかり仕事を覚えてね」


相変わらずの幸村先輩に腹立ったけどスルーで。
とりあえずその日は、マキと一緒に同級生の切原からマネージャーの仕事を教わってそのまま帰らされた。

明日、絶対幸村先輩を見返してやる!



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