強いフリして弱い彼女を、俺はあつかましくも守ってあげたいと思ったんだ。


「昨日の2年、逃げやがって…」
「ね、マジむかつく」
「太田香奈だっけ?」
「ほんと、2年のくせに幸村くんに良くされてさ」


俺の前で誰かの悪口を言う女子3人組。
俺のクラスメイト。
クラスの女子の中ではわりかし俺もよく喋る子たち。

特にチカは、隣りの席だから一番喋る子。


人の悪口を聞くのは嫌いだ。
それが、香奈の悪口なら一層。

俺は小さくため息を吐く。
彼女たちは俺が後ろに立っているのに未だ気付いてないのか、悪口を続ける。


「ほんとウザ。…消えてくれないかな」

「誰が?」


ここまできてやっと俺が彼女たちに声をかけると、3人は息もぴったりにこちらを振り向く。それと同時に真っ青になるチカ。


「あ、ゆ、幸村くん」
「ねぇ、誰がむかつく?誰がウザい?誰に消えてほしいの?」
「や、あの…」


チカが俺を好いてくれていることはなんとなく分かっていた。
俺はチカをそういう意味で好きにはなれないけど、彼女は普通に楽しい子だし、決して嫌いじゃなかった。
だから、傷つけたくなんか無かったよ。でも…




「あのさチカ、知ってる?」
「え」

「俺、人に平気で嫌がらせしたり陰口言ったりする人間は好きじゃないんだ」


でも、香奈に手を出すのだけはいくらチカでも許せなかった。


「次、香奈に何かしたらぶっ殺すよ?」


俺の表情から笑顔が消えたのが、自分でも分かった。





花言葉 09





幸村先輩にいやがらせのことを話した翌日から、あの先輩からの嫌がらせはなくなった。もしかしたら幸村先輩があの先輩に何か言ったのかもしれない。
てか、たぶんそう。

だけど、一度「まだ嫌がらせってされてる?」と聞かれた以外に特に幸村先輩からそのことで何か言ってくることはなかったので、真相は聞けてなかったりする。

なんていうか、嫌がらせがなくなったんなら蒸す返す必要は無いかなって。

ただ恋をしていただけのあの先輩を陥れる必要はないけれど、だからって許す必要もないんだと思うし。

そんなこんなで時は巡り、毎日は変わらないようで変わっていった。

あたしは部活で毎日学校に来てるけれど、他の生徒は夏休みに入った。

あたしとマキは相変わらず大変なマネ業に追われてるし、だけど仕事は大分慣れてきた。
マキと柳生先輩は未だに付き合ったりはしてないようだけど、最近はよく部活の合間の昼食を2人で食べたり買い物に行ったりしてる。

テニス部のみんなは変わらず大変な練習をこなし、とうとう全国も始まった。
全国が始まったにもかかわらず、みんなは試合のあともキッチリ練習をしているんだけどね。相変わらずみんな凄い。

そう、毎日は変わらないようで変わっている。

いつもの試合同様、確実に勝って確実に決勝に向けて勝ち進んでいる立海大。




だけど、幸村先輩が全国大会の試合にまだ一度も出ていなかった。











「香奈ー!!」
「おっぷ!」


マキの声が聞こえたかなと思うと同時に背中に衝撃。
あたしの背中に突撃してきたマキはそのままぶら下りながら猫なで声を上げる。


「あのねぇ、実は今日…柳生先輩シューズ買いに行くんだって」
「ほうほう。…で?」
「〜〜っお願い香奈様!今日の部室掃除、代わって!」


まあ、そんなことだと思ったけどね。

あたしたちは自主的に週1で部室掃除をしている。
今週はマキが当番なんだけど…。


「はぁ。いいよ、付いて行っといで」
「ありがと香奈ーー!大好き!来週はあたしやるから!」
「はいはい」


あたしはつくづくマキに甘いなと思いながらも、幸せそうに柳生先輩の所へ行く彼女も見送って代わりに掃除に取り掛かった。








「はー、大分綺麗になったな」


大体片付いた部室を見渡し、こんなもんだろうと納得するとあたしは帰り仕度をする。
てか、1週間掃除しないだけでこんだけ部室が汚れるなんて意味分からん。
大方切原や丸井先輩が汚してんだろうなと思い、今度一回注意しようと思いながらも部室を出た。

と、そこで。あたしはあることに気付いた。
テニスコートの方から、ボールを打つ音が聞こえる。

あたしはこのボールを打つ音は誰が出しているのか、知っている。なぜなら、その人は毎日1人、どの部員よりも遅くまで残って練習しているからだ。
そう、いつものことなのだ。

その人の練習の邪魔にならないように、物陰からテニスコートを見つめる。
いつもはあり得ないくらい人の気配とかに気付く先輩は、テニスボールを打ってるときだけ周りが見えない。





ちょっと前まで病気で入院していた先輩。

誰よりも多く、誰よりもがむしゃらにテニスをする先輩。

たまに、このまま消えてしまいそうな顔をする先輩。

そんな先輩に、何故だかあたしの心臓は押しつぶされそうになる。





あたしは知っている。
幸村先輩が毎日1人、どの部員よりも遅くまで残って練習していることを。

あたしは気付いている。
全国大会、幸村先輩がまだ一度も試合にでていないことを。




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