どこへ行くとも言わない仁王に引っ張られ、そのまま無言で駅の方へと歩かされる。
駅で電車に乗って家にでも帰るのかな、と思ったが、予想は当然外れた。

仁王に連れてこられたのは、駅のすぐ近く、しかし決して心地よいとは言えない騒音溢れる場所だった。
ほんとうに、うるさい…。

「…ここ、来たかったの?」

そう、彼が行きたいと言った場所は、ゲームセンターだった。


「俺、友達とゲームセンター来たことないんじゃ」


私の目の前には、キラキラした目でUFOキャッチャーを見つめる彼の姿が。
てか、友達と来たことないのか。


「ほら、あの、同じテニス部の人たちとかは?来ないの?」
「んー、丸井やジャッカル、赤也辺りはたまに行っとるけど…」

丸井とジャッカルは、確か同じ学年だったような…クラスは一緒になったことないけど。
赤也は…誰だ?


「俺、キャラちゃうし」
「ぶっ!」

あ、やば、思わず笑ってしまったよ。
だってキャラじゃないって何。
仁王にお構いなしでクスクス笑う私を、彼は不服そうに、少し恥ずかしそうに、じとりと睨んだ。


「それ、何の笑い」
「いやいや…てか、キャラっぽいけどなぁ」
「え?」


私の言葉にキョトンとした顔を見せる仁王にまた笑いつつ、続ける。


「私の中で仁王は、ゲームセンターとかで超遊んでるイメージだった」


女の人とかと。


「………」


なんだか一瞬考える顔をした仁王だけど、結局答えが出なかったのか、訝しげな顔のまま問いた。


「……それ、褒め言葉か?」

仁王って、実は結構面白い。私は、また声を出して笑うはめになった。




なんだかんだで乗せられて、仁王と一緒にゲームセンターで遊ぶも、そろそろ飽きてきた私。

反対に、飽きる気配のない仁王は相変わらず子供みたいな顔で今はマリオカートで一人遊んでいた。
もちろん、私のお金でね。
もちろん、私は放置でね。

何の気なしにキャラクターもののUFOキャッチャーを見ていると、ふと隣からひとの気配がした。左を見ると、まだ幼稚園くらいの、子供が一人。
さっきの仁王と同じようなキラキラした目で、それを見つめていた。


「…これ、ほしいの?」


気まぐれで、話かけてみる。すると、子供はキラキラの目をさらに輝かせて、こくこくと頷いてみせた。その仕草があんまりに可愛くて、気付けば私はそのUFOキャッチャーにお金を入れて、トライしていた。

しかし、やはりそんな簡単に作られていない。何回かチャレンジするも、ことごとく失敗した。
隣で固唾を呑んで見守っていた子供の顔に、不安が見て取れた。


「っああ…」


そして、何回目か分からない失敗をしたときだった。



「ちょお、代わってみんしゃい」


そう言って、すっと私の手を掴んでUFOキャッチャーから離す銀髪。そうかと思うとUFOキャッチャーの前にはその銀髪が立ち、操作する音が聞こえたかと思うと、見る間にキャラクターのキーホルダーを3つ、取ってみせた。

クルリと振り返った銀髪、もとい仁王は、フッと笑ってみせて、隣に立つ子供に2つのキーホルダーをやると、わしわし頭を撫でた。


「それ、やる。はよ、お母んとこ戻れ。迷子なるぞ」
「――ありがとう!」


子供がお母さんの所へ行ったのを見届けると、仁王は再び私の方を向き、キーホルダーをひとつ、差し出した。


「ほら、やる」
「え、あ……ありがとう」


貰ったキーホルダーは、そのキャラクターの種類の中でも、一番可愛くないやつだった。


「…UFOキャッチャー上手いね。ゲームセンター、初めてじゃないでしょ」
「俺、そういうのもサラっと出来るキャラ。やろ?」



その、キャラへのこだわりはなんなんだろ。



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