これは今、一体どういう状況なんだろう。

なんて、他人事のように自分を見つめつつ、足下に向かってため息を零す。前に戻した視線の先には、セールワゴンの中のちょっとダサい靴を品定めする仁王がいる。


『このあと、今日一日、俺とデートして。』


そう言ってニヤリと笑った仁王は、返事なんて聞きもせずに私の手を引っつかんで歩き出した。
なんか自分でもよく分からない内にぐるぐる回る現状に、ついていけない私はされるがままで。

気付いたら、靴屋にいた。


『お前さんに靴も履かず鞄も持たないまま連れ出されて、裸足なんじゃ。安いのでいいから、靴買って』


そう言われて、初めて気付いた。確かに仁王は足に靴下以外の物を履いていなかった。


「なー森島、これどうじゃ。可愛くない?」
「何でもいいから早く選んでください」


そして今、仁王が靴を選ぶのを待っているわけで。裸足なのは私のせいなんだけど、早く選んでっていう。
ずっとワゴンに向けられていた視線がふと上がり、少し離れた所に立っていた私の方へ向く。


「…そんな離れて立っとらんと、こっち来んしゃい」
「え、いや、それは…」


女子なら誰でも憧れる仁王。
よう子が憧れていた仁王。

そして、私も憧れていた仁王。

先程よう子に怒鳴った手間、同じく憧れていた私が彼に近づいたりしたら、それはなんとなく許されない罪のような気がした。

だけどそんな私の心配をよそに、仁王は離れた所で立つ私に近づきスッと手を取った。


「これもデートのうち、な?」


そうだ、デート。彼は私にデートしてくれと言ってきたんだ。
親友が、監禁してまで焦がれた相手だ。そんな人とデートなんて、間違ってると思う。
だけど、そのことでよう子の罪を仁王が許してくれるというなら、いいのかな。

いや、私は、いいと思いたいんだ。

掴まれた手に引かれ、おずおずと仁王に近づく私をみて、彼は少し可笑しそうに笑い、かと思えば、パッと目の前にお世辞にも趣味が良いとは言えないような靴を出してみせた。


「これにする。買って」
「…趣味悪いね」
「んじゃ、あそこのいちまんえんの靴を…」
「わ、うう嘘です!」


冗談だと分かりつつ、本当にそんな靴を持って来られたらたまったもんじゃないから、仁王の手からそのダサい靴を奪い取ると急いでレジに持って行った。500円だった。

店を出て、ダサい靴をペタペタと鳴らしながらどこ行くあても無さそうに歩く仁王についていく。
でも、ちょっとダサい靴を履いたその足を見ていて、なんだか急に辛抱たまらなくなった。


「…あの、仁王くん家の最寄り駅ってどこかな。お金渡すし…そろそろ帰ろ…うぶっ!」


こんな状態じゃ学校に行けないだろうし、とりあえず一度家に帰る提案をしてみた。と、同時に仁王の歩みが止まって、思い切り彼の背中にぶつかってしまった。
どうしたのかと無言で彼を見上げると、一瞬何かを思い立った様な顔をして、かと思えばすごい笑顔で話しかけてきた。



「なぁ、俺、行きたいとこある」


そして、よう子のアパートを出たあとのデジャヴのごとく、再び仁王に腕を掴まれた私はされるがままにどこかへ連れてかれた。



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