目を覚ました仁王は初めはぼんやりした瞳をこちらに寄せ、段々と焦点が定まってきたのかその瞳でしっかり私を捉えた。


「ひとり、増えとる。高橋以外に…犯罪者が、ひとり」


予想外に出たよう子の名前に私は目を開く。
そして、犯罪者という言葉に背中が粟立つのを感じた。
そうか、いくら睡眠薬でも一日中寝るわけないもんね。一度、目を覚ましたんだ。で、よう子は監禁をしてるわけで…手を解かれなくてやることがないから、寝てたんだ。

仁王は、自分の立場と私たちの立場を理解してる。

昨日から何も飲み食いしていないのか。乾燥してカサカサになった唇を、ゆっくり開いて仁王は呟く。

「お前も、高橋と同じ」



犯罪者‥?



「去年、同じクラスやった…、森島やな」


彼の口から出た言葉は、想像していた恐ろしいものとは違った。

私のことも、知ってる。

"あの"、仁王雅治に名前を知ってもらっていて不謹慎ながら少し嬉しい気持ちが込み上げたけど、それは大変なことだと気付く。

彼は自分の立場を理解していて、私たちのことも名前を含め知っている。もし、警察にでも行かれたら…

「―っ今すぐに腕を解く!だから警察に言わないで!!」
「ちょっと、駄目だよかなえ!」


仁王に懇願しつつガムテープを外しにかかると、よう子が勢いよく止めてきた。


「あんた、何言ってんのよ」
「だって絶対そんなの警察に行かれちゃうよ!それに…っ」



止めてくるよう子に視線を向けると、その後ろに座る仁王が視界に入る。

彼は、よう子でなく、真っ直ぐ私のことを見つめていた。




「…それに、せっかく仁王が手に入ったんだよ?」


心臓がドンと、音を立てた気がした。
私は、笑顔で、虚ろな瞳でそんなことを言うよう子を、思い切り突き飛ばす。

彼女の瞳は、まるきり犯罪者のそれだった。


「激情的で行動的なよう子がやってしまったことは、受け止めてあげる。でも、心まで本当に犯罪者になるのは許さない。私はあんたが何をしでかしても、見捨てないって決めた。だからこそ、これ以上は許さない。これ以上は…あんたを殺してでも止めるから」


突き飛ばした拍子で尻餅をついたよう子が目を見開いて私を見た。
そんな彼女を尻目に、私は仁王の手足に巻き付くガムテープを外すと、彼を立たせる。


「一緒に来て。ここから逃げて!そんでよう子、あんたは……っ」


私の剣幕に驚いたのか何なのか、腰を上げないよう子を一瞥する。



「ちょっと、頭冷やしな」


そう言いながら、彼の腕を引いてアパートを出ると目の前には登校途中の学生がちらほら。そして、私の左手が掴むのは仁王の右腕。

どうしてこんなことに…。

私たちは最寄りの駅に足を進めながら話す。


「に、仁王…くん、様」
「…」


私はポツリと彼に呼びかける。
その声が震えていて、私は初めて手足、全身が震えていたことに気付いた。


「あの、あなたには大変な迷惑をかけました。あの子、思ったらすぐ行動しちゃうから…今回は、それが間違った方向にいっちゃったんだと思います。だからその…勝手だとは思うんですけど、許してほしいっていうか…忘れて下さい」
「…」


つらつらと言い訳くさいことを言いながら、迷惑かけといて忘れてとか勝手だなと自分でも思う。
そして、なんの反応も示さない仁王が恐すぎる。顔を見れない。

もし、このあと警察に行くつもりだとしたら―――


「あ、あの…っ!本当勝手だと思う。だけど…け、警察には言わな」

「言わんよ」

空気が止まる。さっきまでの殺伐とした空気が止まった。
アパートを出て、初めて私は仁王の顔を見た。


「言わん。けど―…」


彼は、笑っていた。


「このあと、今日一日、俺とデートして。」


彼は、確かにこう言った。



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