「ねぇ、私たちって。何があっても友達だよね?」


朝、登校中。隣に歩くのは、中学に入学したときからの親友。
真顔でそう尋ねてくる、普段あまり見ない彼女の様子に、私は思わず息を呑む。

なんだろ、何を言われるのだろう。
でも、彼女はたった一人の親友だ。
あのときに誓ったのだ。
何があっても、見捨てたりはしないと。


「当たり前じゃん。私たちは、何があっても友達だよ」
「うん…ありがと。それと、ごめん。私、仁王雅治拉致しちゃった」








「………………は?」


仁王雅治ってのは、私とよう子が通う立海大付属中に在籍する生徒。
去年、同じクラスだった。

テニス上手くて顔もかっこよくて、ミステリアスだしなんかモテる。
彼に憧れる女子生徒は数知れず。
そして、例に違わず、私とよう子の憧れの人でもあった。


「な、に…何言って、」
「昨日拉致って、手足縛ってるから動けない状態で放置してる。監禁…になるのかな」


彼女は一体何を言ってるのか。想像もつかない言葉の連続で私の目は点。
自由奪って一室に閉じ込めたら、監禁云々の前にーー立派な犯罪。


「な、なんで…だって学校で仁王がいなくなったなんて話先生も誰も、」
「仁王の家、放任だから。またフラフラ遊んでるとでも思ったんじゃん?」
「っと、とりあえず急いでよう子の家行こう!」
「なんでかなえがそんな焦ってんの」
「なんでよう子がそんな冷静なの!!」


学校へ向けて進めていた踵を返し、二人でよう子の家へ向かう。
よう子の親も放任で、しかもお金持ち。両親はお互いに不倫していて、あまり家にいないらしい。どうせ一人で過ごすならと、よう子は学校から近いアパートを宛がってもらっていた。

簡素なアパートの扉をゆっくり開く。
そこには、決して居てほしくはなかった仁王雅治がいた。


「ほんとにいる…」


後ろ手と足を、ガムテープでぐるぐる巻きにされて体育座りの格好で眠る仁王。外傷はなさそう…だけど。
どうすればいいんだろう。
これは…犯罪の現場だ。
そして、その犯罪を犯したのは私の親友なのだ。

いきなり巻き込まれたこの非現実的な状況に頭はついてこず、先にカッと感情に火がついた。


「なんで…」
「え、」
「なんで、っなんでこんなことしたのっ!?」


よう子は私の親友だ。とても大切な人だ。そんな大切な人が犯罪を犯したなんて信じられなかった。
信じたく、なかった。

私は怒りの篭った声で怒鳴りつつよう子の左腕を強く握った。よう子は普段怒鳴ったりしない私のそんな態度に怯える表情を見せた後、今さらこの事態に怖くなったのか、震えた声でポツリと話した。


「…私、好き、だったの、仁王が」
「だから、告白したら…好きな人がいるって断られて」
「辛くて、ほんとに、好きだから辛くて…思わず仁王に飛びついたの」
「そしたら、私の行動が予想外だったのか、反動で仁王倒れちゃって。怪我、しちゃって」
「家に連れてきて、手当てして…出来心でお茶に睡眠薬を盛ったの」
「そしたら予想外に、うまくいって。仁王、寝ちゃって」


自分が仕出かした事の重大さに気付いたのか、よう子は床に膝をついて顔をくしゃくしゃにした。


「気付いたときには、こんなことになってた」


ゆっくり、まるで助けを求めるように私の方を向く彼女に、取りあえず仁王の腕を解くよう提案しようとしたその時だった。


「う…っ、ん」
「「!!!」」

「……………お前、ら、?」


仁王が、目を覚ました。



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