It was loved.omake




なんであんたたちはこんなことになっているのかと、小一時間問いただしたい。
金色小春は心の中でそう思っていた。


「なんで別れるなんて言うたんや、あいつ。確かに、最近様子がおかしかったんやけど…普段言わん我が儘とか言うたし。けど、急に別れるとかそんな…」


金色小春の漫才の相方、一氏ユウジには彼女がいた。彼らの漫才の師匠である小泉氏の孫娘がそれだった。
元はその孫娘、小泉美咲が一氏に惚れてアタックを始めた。元々一氏が彼女に好意があったわけではないのは事実だ。しかし、めげずに何度も想いを伝える彼女に一氏が惹かれたのも事実だった。

ところが、そんな彼らにはすれ違いが多かった。
自分から好きになった故に自信のない美咲。
相手から好きになってもらった故に想いを伝えられない一氏。
意地っ張りな彼と鈍感な彼女。

そしてとうとう、美咲から別れを切り出すという事件が起きたのだ。

美咲が一氏を好きでなくなったと、金色は思えなかった。理由は簡単で、ほんの最近まで、金色は美咲に羨ましがられ、妬まれていたからだ。
(おそらく、彼らがホモカップルを売りにしており、金色と一氏がお互いを本気で好きだと勘違いしていたのが理由である)


「ユウくんは、別れたいの?別れたないの?」
「…そんなん、別れたないに決まってるやん」


金色は一氏の言葉に盛大なため息を吐く。ならなんでそのむねを伝えないのか。


「あ、あんときはテンパってたんや!」


こんなバカでも、大切な漫才の相方なのだ。


「…やから、漫才の舞台で俺の気持ちをあいつに伝えたい。小春、協力してくれへんか?」


一氏の提案に、小春は二つ返事でオッケーした。





――ところが。


事件が起きた。

金色が無事美咲にチケットを渡し終わった後、ライブ開演数分前。彼らの部活の仲間である白石蔵ノ介が普段見せない焦りようで、会場に飛び込んできた。


「小泉が脚立から落ちて、意識があらへん!」


それを聞いた瞬間。一氏の顔色がガラリと変わって、そうかと思うと白石の頬を殴りつける。


「お前、何しとんねんっ、なに美咲に怪我させとんのやっ!!」


そう叫んだかと思うと白石の胸倉を掴む一氏。


「す、すまん」
「…いや、俺こそすまん。美咲どこにおるん?」
「保健室や」


そう聞くや否や、彼は会場の出口に駆け出す。


「ちょっとユウくん、もうちょっとで本番よ!」
「…俺は小春を信頼してる」


金色と白石に背を向けていた一氏は振り返ると、強い信頼の眼差しを金色に向けながら言った。


「今日の漫才、ピンでやり過ごしてくれ!すまん!」


そう言い捨てると、一氏は美咲のいる保健室へ向かい二人の前から消えた。





「信頼してるってな…、丸投げやんけ一氏コラァ!!」


そんなこんなで今回の騒動(金色からすれば痴話喧嘩)で一番被害を受けたのは、金色と白石だったりする。





「だいたいね、美咲ちゃんもニブチンやっちゅー話やわ」
「確かに。誰がどう見たって一氏はちゃんと小泉のこと好きやんなぁ」
「そのくせワテのこと真正ホモや思て…大袈裟に言えば殺気?そんなん含んだ目で見てくるし」
「それを言うたら俺かてやで。ユウジのやつ、小泉の一番仲良い男子が俺やから何や知らんけどちょいちょい敵視してくるし」
「あー確かに」
「文化祭かて、何回小泉の誘いは断れよって釘刺されたか」
「あー言うてたわね…」
「挙げ句殴りよるし。この綺麗な顔を」
「蔵りんキャラ違うで」


二人はひとしきり愚痴を零したあと、一つ深呼吸をする。
そして、金色小春が呟いた。


「…ほんまバカップルやわ。二つの意味で」


呟きながらも、顔は笑っていたとか。



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