自分の発言にここまで後悔したのは初めてだった。





It was loved.4





あの日、涙ながらに一氏に別れを告げたあの日から、私と一氏はちゃんと話し合うこともなくいた。
そして、曖昧なままにとうとう文化祭当日になった。

良しも悪しも返事が聞けなかったけど、まぁ、こんなものかと思った。

元々一氏が付き合ってくれていたのは私のことを好きだからじゃなくてしつこくアタックする私に根負けしたからだったし、別れられてせいせいしてるのかも。
でもそれを言わずに去っていったのは一氏の優しさなんじゃないかとも思う。
一度も好きとは言われなかったけど、彼氏彼女らしい事は一つも出来なかったけど、私は幸せだったよ。

ありがとう、一氏。







「ちゅーか、ちゃんと返事聞いてないねんから別れてないやろまだ」
「えっ!!?」


ただ今文化祭真っ最中。
テニス部の出し物を手伝いながら最近の一氏とのあれこれを白石に報告すると、そんな予想外の返事が返ってきた。
ちなみに今、一氏と小春ちゃんは例の漫才をしに会場に行ってる。
だから出し物の所には私と白石と数人のテニス部員しかいない。


「いや、でも私、すっごい我が儘言うてしもたし」
「そんなん、我が儘くらいで消えるもんちゃうやろ、好きって気持ちは」
「いやいやだから、一氏は元から私を好きでは…」
「美咲ちゃん!」


白石と軽く押し問答みたいなことをしていると視界の端に坊主頭が見えて、そうかと思うと名前を呼ばれた。その人物は思った通りで小春ちゃん。そうだと確認したとたん一氏の顔が浮かんで、心臓がキュッと縮んだ気がした。


「なに?小春ちゃん」
「これ」


そう言うのと同時に渡されるのはチケット。よく見るとそれは一氏と小春ちゃんが出る漫才のチケットで、私は首を傾げる。


「美咲ちゃん、これ、持ってないんでしょ」
「…うん」
「ユウくんが、美咲ちゃんにって」
「一氏が!?」


思わず叫ぶ。

だって、あの一氏が私に、しかも小春ちゃんを使って自分の出る漫才のチケットを渡すなんて…考えられない。


「え、あ、ど…」
「それじゃあ、あと30分後くらいには始まってまうから、来てあげてね」


ぽんぽんっ、とチケットを握りしめる私の手を叩く。


「ユウくん、ずっとこのチケット渡せへんだみたいやから」


ほんとに?

これ、本当に一氏が。

私の…ために…?

踵をかえして会場に戻ろうとする小春ちゃんをなにか縋るような気持ちになって見つめた。


「こ、小春ちゃん!」
「あ、それと美咲ちゃんに言いたいことあったんよ」
「え」


小春ちゃんはこっちを再び振り向くと、にっこり、男の子の顔で笑った。


「ワテ、他校に可愛らしい彼女おるから」


私が目を点にしてぼうぜんとしているうちに、彼はすいすいと会場へ行ってしまった。
なんだ、小春ちゃんて真正ホモではなかったのか…。

てか、まさかの彼女もち?


「チケット、持ってなかったんか」
「やって…この漫才のせいで喧嘩したんやもん」
「ふーん」


チラリと白石に視線をやると、ニヤニヤ笑ってやがった。途端になんだか恥ずかしくなってしまって、思わず俯く。


「別れてないやん」
「ち、ちゃうよ!きっと…別れたから最後の餞別とかそんな…感じ、で」
「はいはい」


相変わらず白石は笑ってるし、私はそれにつられて希望を見いだしてしまって、つい嬉しくなってしまう。


「そろそろ行かんなんのとちゃうの?」
「…う、ん」


私はさっきのチケットを握りしめて、会場に向かおうと出し物屋台の中から出る。
ふと、屋台の外装が取れてしまってるのに気付いた。


「白石、これだけ直してから行くわ」
「え」


私は屋台のスミにおいてあった脚立を引き寄せると、その上でさらに立ち、取れていた装飾を付けようとした。

その時―――


「危ないッ!」


白石の叫び声と同時に、脚立に衝撃が走る。
立っていた私は思わず体制を崩し、そのまま地面に頭から落ちてしまった。


「小泉大丈夫かっ!?」


そのまま、私の意識は遠のいた。



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