好きになってもらえれば、何番でもよかった。





It was loved.3





なんとなく喧嘩っぽくなった私と一氏は、気まずくてあれ以降話さなかった。
当たり前だけど向こうから話しかけてきたりなんてしてはもらえなくて、地味にへこんだ私はトボトボ白石の教室に来ていた。


「えーっ、何で!?」
「何でって言われたら…うーん、部長やから?」


そして、たった今。
白石を文化祭で一緒にまわるのに誘ったのだけど、なんとまぁ断られました。

そんな…一氏には断られる可能性も少しは考えてたけど(それはそれで切ない)まさか白石にまでフラれるとは。まさか彼女できたんかコイツ。


「ほら、テニス部の出し物あるし、部長の俺が離れるわけにはいかへんやろ」
「私のクラス、展示やから店番もないねんけど。暇やねんけど」
「あー、ほんならテニス部の出し物手伝うか?」
「え!」


何それ超いい考え!

テニス部の出し物を手伝ったら暇じゃなくなるし更に少なくとも白石という話し相手はいるしテニス部の、なんだからもしかしたら…一氏とも絡める!


「…片想いみたいやな」
「ほっといて」


白石に痛い所を突っ込まれてうなだれていると、すぐ隣の扉が開く音がして振り向く。そこに立っているのは一氏だった。


「……ひと」
「やっぱりここにおった。はよ行くで。お前おらなんだら師匠の家入りにくいやろが」


そう言ったかと思うとガッと首根っこ掴まれて引きずられる。いつものことながら彼女の扱いじゃない。てか、なんか、怒ってます?


「一氏」
「……」
「ユウジ」
「………」
「痛いんやけど!」
「…ああ、すまん」


相変わらず首を掴まれて、いい加減痛いことを発言するとやっと手を離してくれた。そのまま足は止まり、私と一氏は廊下に突っ立ったまま黙り込んだ。

一氏はこっちを見はしないし、話かけもしない。何かずっと怒ってる。たぶん、今日の突っ掛かってくる風の私の態度が気に入らないんだろう。


「…一氏」
「……」


返事も、しないし。
さすがにショックでじわりと視界が歪んむ。思わず涙が流れそうになった。
だけど、私に背をむける一氏はそれに気づく様子もない。


「なぁ一氏、おじいちゃんとこに行くのやめよ。今日は私とデートしてや」
「…何言ってんねん。小春が師匠の家行ける日が今日しかないからあかん」
「小春ちゃんの都合なんか知らん!今日は小春ちゃんとの練習は休みにして、私と遊んでっ!」


やっとこっちを振り向いた一氏の顔は、すごく冷たかった。


「はぁ?お前ふざけんな」


一氏が怒るのは分かる。
今のは私が悪い。
でもね、一氏。
気付いてる?


私と一氏、デートしたことないんだよ。
あんた、私のこと名前で呼んだことないんだよ。
私、まだ小春ちゃんに彼女として紹介されてないんだよ。

一氏、私に、好きって言ったことないんだよ。


始まりが無理矢理だったから、安心したかったんだ。
せめて好きって言ってくれたら…漫才やテニスや小春ちゃんより下でもいいから好きって言ってくれたら、安心できた。私、神経図太いからさ。

でもさ、でも…


「一氏…」


それさえも叶わない。
もう無理だよ。


「好きになってごめん。迷惑かけてごめん。別れよ」


一氏は数秒間私を見つめた後、何も返事せずに何処かへ行った。



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