好きなんだよ畜生。





It was loved.1





「小春〜」
「ユウく〜ん」

「……」


多分、今のあたしの顔はもの凄く酷いのでしょう。


「なんちゅう顔しとんねん」


あたしの彼氏があたし以外の人とイチャイチャしてるのを尻目に、ため息を吐きながら机に突っ伏した。
そこへ、頭上からかかる半笑いの声。あたしの彼氏と同じ部活でそこの部長。


「…白井」
「白石や」


あたしがのっそりと頭を上げれば、「なんか亀みたい」とか言って笑う白石と目が合う。


「クラスちゃうやん何しに来たんよ」
「ユウジと小春にちょっと渡すもんあんねん」
「あっそ。ほんなら早う行ってきいよ。…あの二人のラブラブ具合を邪魔する勇気があるならな」
「…お前、どうにかせぇよ。あれ彼氏やろ」


そう言って遠い目で見つめる白石、の視線の先にはあたしの彼氏―――もとい、一氏ユウジの姿。

そう…あたしの彼氏とは、校内一のホモップルの片方。一氏ユウジなのだ。


「どうにか出来たらとっくにしとるわ」
「なんやその切ない顔。めっちゃ変な顔やで」
「白石消えてほしい」


切ないよ。
あたしが一氏にとって小春ちゃんよりも大切な存在って、自信もないし。

この自信の無さは、あたしと一氏が付き合うようになった経緯も関係してる。



出会いは至極簡単だった。
どうやら私のおじいちゃんは昔、一躍有名になったお笑い芸人だったらしく(私はあんまりお笑い詳しくない)、一氏と小春ちゃんが弟子にしてくれと家に押しかけてきたのが出会い。そしてまんまと一氏に一目惚れした私は、速攻彼に告白した。

ぶっちゃけ私はその時フラれた。

だけど諦めきれなくて、一氏が同じ中学に通っている事が分かってから毎日アプローチしに行った。そして最終的には一氏が折れるような形で付き合うことになった。
うん、ね。同じ中学に通ってると分かり一氏のことを調べまくった辺りから分かってたよ。一氏が小春ラブのホモだってことは。それでも私が勝手に諦めきれなくて、一氏が渋々付き合ってくれたのも分かってる。でもだからこそ、一応彼女である私を完全放置で小春ちゃんとラブラブしてることが…不安なんだよね。彼女としての自信なんて持てないんだ。

シュンと肩を落とす私に、白石が心配そうな顔を向けるのが分かった。この人は本当に優しいしいい人だし存在がカッコイイよね。何かモテるのも分かる。私もこういう人を好きになりたかったよ。

…だけど私が好きなのはどう足掻いても一氏で、恋とはなんとも理屈じゃない。


「あああっもう!私は白石のような人を好きになりたかったー!」
「あはは、ほんま?じゃあ小泉はユウジと別れて俺と付き合―」
「白石!」


そんな風に私が白石とじゃれていると、後ろから白石の名前を呼ぶ声がした。

一発で分かる。
この声は一氏。

私と白石が同時に振り返ると、思った通りに一氏が立っていた。小春ちゃんを連れて。

顔がしかめっつらになったのは許していただきたい。


「白石お前、クラスちゃうやん。何しとるん?」
「あー、二人に用事あってな。別にオサムちゃんに頼んでも良かったんやけど、最近2人に会ってないからついでに会いに来た」
「蔵りんお久!部活引退してからあんま会う機会ないものねぇ」


こんな感じで、二人が来た途端白石さえも私を構ってくれなくなった。

つまんなくなって私が机に突っ伏すと、ぽんと私の頭の上に置かれる大きい手。


「お前、大丈夫か?しんどいん?」
「……大丈夫」


突っ伏した私を心配してくれたのは一氏。この人はこういう所があるんだよな。
普段は私なんかそっちのけのくせに不意に気付いて不意に優しい。それが私の気持ちを掴んで離さない。

顔がすっごい好みなんだけどなー。
顔だけじゃあないんだよなー。


「…私ばっかり好きやん」
「え、何か言うた?」


も〜〜〜〜っ!



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