穴が開きそうになる程見つめられること数十秒。ドロシーは体に巻き付くビルの腕を外した。
「…えっとね、告白は」
断ったよ。そう言おうとしたドロシーを、ビルの声が遮った。それは今まで聞いたことのない大きさだった。
「聞きたくない!…………イヤだよ、イヤだ。あんな男より、僕のほうがずっと君のこと思ってるのに。…気付いてくれよ、僕の気持ちにも」
いつも冷静なビルが顔を紅潮させて叫ぶ。そして彼の顔は瞬く間に悲痛な面持ちに変わっていた。同じように言葉も語尾にいくに連れて、どんどん力が弱まっていった。 それとは反対にドロシーの心は怒りで震えていた。
「…だったら、貴方だって私の思いに気付いてよ!……他の子なんて見ずに、私だけを見てよ」
自分のことを棚に上げて、自分だけが苦しんでいる様に言うビルに腹が立つ。私だって苦しかったし、悲しかった。そう思うと自然と涙がこぼれた。廊下を歩く生徒達が何事だと言わんばかりに、様子を伺っていたがドロシーはなりふり構わず叫んだ。 ビルはそんなドロシーの握りしめられた手を取ると、上から重ねるように握った。
「見てる。…君しか見えてない。ドロシー、君が好きだ」
I love you―――ドロシーの一切濁りのない翡翠色の瞳を優しく見つめ、噛み締めるように呟いた。
さきほどまで怒りに震えていた心が今度は歓喜で震えだすのが分かった。しかし意地を張る自分が、うんと頷くのを許してくれなかった。 顔を赤くしたまま固まっているドロシーを抱き寄せ、耳元に口を寄せる。
「好きだよ。…君は、僕のことをどう思ってるの?」
ビルにはドロシーの答えが分かりきっていた。自分以外の子を見ないで、と告白されれば誰だってそれに気づく。ようやく余裕を取り戻せたので、意地悪をしてみたくなったのだ。片方の口角を上げて一つの答えを待つ。
「………好き」
返事は思い通りだったが、行動は違った。ドロシーは勢いよくビルに抱きついたのだが、如何せん勢いがよすぎた。ビルを廊下で押し倒してしまったのだ。
「随分と大胆だね」
そんなところも好きだよ。ビルか上半身を少しあげて頬にキスを落とす。ドロシーは顔をポッと赤くして、上から立とうとしたが今度はビルが押し倒した。
「君は僕のものだよ。…もう、離してあげないから」
ビルはそう言うと、ドロシーの赤く色付いたそこに、そっと口付けた。口付けられた唇から、暖かい何かが伝わってくる。 ドロシーがぎゅっと目を瞑ってキスを受け入れていると、ようやく唇が離れた。恐る恐る目を開くと、ほくほく顔のビルが居た。
「今が、生きてきた中で一番幸せだよ」
ビルの手を借りて立ち上がる。ドロシーは、立ち上がっても離されなかった手を見つめた。
「…私も」
顔を綻ばせて笑ったドロシーを見て、堪らずビルはキスを降らせた。 額、瞼、鼻先、顎、顔の至る所にキスをしていくと彼女はくすずったそうに笑った。そして、最後に唇に口付ける。啄むように角度を変えて何度も何度も。時折、愛の言葉を交えながら二人は幸せな時間を過ごしていた。
名残惜しそうに顔を離すと、今まで静かだった廊下が急に騒がしくなった。ヒューヒューと口笛を吹く者や、こんな所でイチャつくなと怒るやつ、顔を真っ赤にした下級生。沢山の人に見られていたことに気付いたドロシーは今直ぐにでも顔から火を出せそうだった。
「こんな所で何を騒いでいる」
スネイプだ。騒がしかった廊下が途端に静まり返る。二人は顔を見合わせると、一目散に走り出した。 青空の下、ドロシーは数日前と見違える晴れ晴れとした顔で彼の隣を走っていた。これからもこうして傍に居たい。そんな思いを込めて見つめていると彼は、ドロシーの視線に気付き振り返った。
「私だって、離れてあげないんだから」
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