一日の全ての授業が終わった。ドロシーはクリスと別れると、図書館へ向かった。
彼女ははかなり勤勉な生徒で、毎日予習復習を欠かさずしていたおかげか、四年間ずっと次席の成績を取ってきていた。今年こそは主席を取る。そう決めた今年度は例年以上に勉学に励んでいた。

下を向いて羊用紙に文字をツラツラと書き連ねていくと、影が視界に映った。誰がいるのだろう、そう思い顔を上げる。

「…ウィーズリー」
「勉強捗ってるかい?」

返事をする間もなく、ビルはドロシーの隣の椅子を引いた。
昨日、クリスがビルに啖呵を切ってから一言も会話を交わしていなかったのですこし驚いた。まあまあよ、と返事をすると彼は椅子に座った。

「昨日はクリスがごめんなさい。あの時は振られた後で情緒不安定だったみたいで」
「分かってるよ、気にしないで。それより僕こそごめんね。ドロシーが折角挨拶してくれたのに無視して」
「大丈夫よ。虫の居所が悪い時なんて誰にでもあるもの」

話を続けながらもペンを走らせていく。

「……あ、ここ、間違ってる。これは切る前に茹でるんだよ」
「ほんとだ。…ありがとう」

自分が間違っていたことが恥ずかしい。ほんのりと顔を赤く染めながら間違いを訂正する。

「………忘れてた。ウィーズリーが主席だったのね」

憎き主席が彼だったことを思い出す。こんなに頭が良いのじゃあ、勝てる訳がない。ドロシーは諦めが悪い方だったが、こればっかりはそう思う他なかった。

「…ずるいわ」
「何が?」
「あなたって顔も性格も運動神経も良いわ、それに加えて勉強もできるなんてずるい」
「……」

興奮していたドロシーはあまり物事を頭で考えずに思っていたことを口にしてしまった。急に黙ってしまった彼を見ると、彼は長めの髪から出た耳を赤くして口元を手で覆っていた。そして、自分が言ったことに気付くと、恥ずかしくなりドロシーも顔を赤くした。

二人の間に沈黙が走る。チラリと彼を見ると、同じように此方を見ていた。彼はドロシーの頬にそっと手を触れた。少しカサついた細くて長い指が優しく頬を撫でる。その手は少し冷たくて気持ちがいい。目を細めてそれに浸っていると、彼の親指が下唇をなぞるように触れられた。

「名前で、……ビルって呼んで」
「…ビ、ビル」
「もう一回」
「……ビル」

よく出来ました。砂糖とシロップ、それからはちみつを加えたような甘い声で彼は言った。そして両手でドロシーの顔を包むと、暖かい感触がそっと触れた。

「おやすみ、ドロシー」

颯爽と図書館から出て行ったビルの後ろ姿を見つめる。それが見えなくなった後、ドロシーは唇に触れるか触れないかという所を押さえた。心臓が信じられないくらいに速く脈打っていた。


それからどうやって寮に戻ったのかは覚えていない。目を覚ますと、いつも通りベッドの中に居た。眠たい目を擦りながら、這い出る。身支度を整えると、まだ気持ちよさそうに寝ているクリスを起こす。

「起きて、朝よ!」

ぱしぱしと叩けばもぞりと動いた。布団を無理矢理剥ぎ、ベッドから出す。少し機嫌が悪そうな彼女を椅子に座らせ、髪を梳くと目が覚めてきたのかパチパチと瞬きをした。

「…お腹空いた」
「そうね。じゃあ行きましょう」

二人は揃って大広間に向かった。




← / →







「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -