此処、ホグワーツに入学してから早くも四年間が経った。かけがえのない親友もでき、入学してからというもの毎日が驚くほど楽しかった。
ドロシーは大広間で夕食をとったあと、寮監のマクゴナガルに呼ばれていった親友を見送るとそんなことをしみじみと考えながら寮に戻る。扉を開けると、談話室に男にしては長い赤毛の髪を持つ人がいた。

「…やあ、ドロシー。君が一人なんて珍しいね」
「ハイ、ウィーズリー。クリスはマクゴナガル先生に呼ばれてしまったわ」
「へぇ…どうしたんだろう?」

ホグワーツでも一、二を争うほどにモテる男―――ビル・ウィーズリー。
同い年で同じ寮だが、あまり親しくなかったので話しかけられた事に少し驚く。ニコリと微笑みかけてくるビルに、さあ?と同じようにして返事をする。
ビルと二人きりで話すのはこれが初めてだった。

「…ところでドロシー、チョコレートは好きかい?」
「ええ、勿論よ。チョコレートが嫌いな人なんて居ないわ」

間髪入れずにそう返答すると、ビルはクスクスと笑って手を出してきた。彼が何をしたいのかが分からず、首を傾げる。

「手をだして」

言われた通りにすると、掌にパラパラとチョコレートが数個置かれた。包みは色とりどりで、中身は見えないがどれも美味しいのだろう。

「あげるよ、フリットウィック先生に貰ったんだ」

おやすみ、ドロシー。そう言うとビルは男子寮へと続く階段を登っていった。チョコを置かれた際に少しだけ触れた指先はなんだか少し熱かった。


その日から、ドロシーはビルとよく話しをするようになった。
話す内容は他愛も無いことばかりだったが、二人は今まで仲良くしてなかったのが嘘のように気が合った。


「私は兄が一人居るわ。ウィーズリーは…長男でしょ」
「よく分かったね。弟が5人と妹が1人居るんだ」
「じゃあ7人兄弟なの?さぞかし賑やかなのでしょうね」

クスクスとドロシーが笑うと、ビルは困ったように笑った。

「そりゃあもう凄いよ。でも、楽しいよ」

家族のことを思い出しているのか遠い目をしながらビルは言った。
ドロシーも魔法省で働いている兄を思い出した。年が離れているせいなのか、いつも自分には甘かった。箒に乗せてと言えば2人乗りをして遠くまで行ってくれ、本を読んでと言えば自分が寝るまで読んでくれた。幼い頃を思い出すと自然と笑みが溢れた。
現在は国際魔法協力部で忙しい日々を送っているようで会うことができていない。早く会いたい、無性にそう思った。


「…休暇が待ち遠しいね」
「そうね、とっても」
「じゃあそろそろご飯食べに行こうか」

ビルはドロシーの手を取ると、大広間に向かった。
その途中、女子からの目線がとても痛かった。相変わらずの人気だ。突き刺さる視線から逃れるために手を外そうと思えばすることはできたが、そうはしなかった。理由は自分でもよく分からなかった。


「ドリー!」

大広間の扉こらパタパタと走りながらクリスが此方に向かってくるのが見えた。持っていたスプーンを一旦置き、彼女を受け止めるように両手を広げると、そこに勢い良く収まった。首に腕が回され、しがみつくように抱きつかれる。

「どうだった?」
「…………振られたぁ」

告白をした相手は確かハッフルパフの5年生だったはずだ。クィディッチでチェイサーをしており、顔もハンサムでそこそこに人気もあったと思う。
玉砕してしまった彼女をよしよしと慰めていると、向かいから声が掛かった。

「次があるよ、クリス」

そう言ったビルをクリスはキッと睨みつけて唸るように呟いた。

「…告白すらできない臆病者にそんな事言われたくないわ」
「クリス!」

顔を赤くして怒るビル。彼がこんなになるなんて珍しい。ボケーっとしながら二人のやり取りを見つめる。どんどんヒートアップし、クリスは今にもビルに掴みかかろうとしている。それを見てハッとなると、ようやく止めにかかる。

「二人共やめて!すごい目立ってるわ」

クリスを宥めるように肩を叩く。すると、ようやく落ち着きさっきまで喚いていた自分に恥ずかしくなったのか急いで椅子に座った。

「ウィーズリー、クリスがごめんなさい」
「いや、いいんだ。僕も悪いしね」

ビルは申し訳なさそうに笑ってそう言うと、大広間から出て行った。
ドロシーはクリスを呆れるように見た。

「……ごめん。ついカッとして」
「もうやらないでね、恥ずかしいから」

俯く彼女の頭をポンポンと叩くと上目遣いでこちらを見上げてきた。瞳の縁に溜まった涙を親指で拭う。

「ご飯食べましょう」
「…うん!」






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