入学した次の日から早速授業が始まる。レーナは初の授業の緊張からか早めに目を覚まし、いつも通り身なりを整えてから寮を出た。
大広間に着くが、時間が早かったのかまだあまり人は居なかった。グリフィンドールの席で食事をしている時に、ふと視線を感じたレーナが顔をあげるとハッフルパフのテーブルから笑顔でこちらを見るセドリックが居た。レーナはぎこちなく笑い返すと口の中のものをジュースで流し込み、大広間を出た。

ホグワーツの授業は勉強好きなレーナからすると、とても魅力的だった。中でもフリットウィックの妖精の魔法と、マクゴナガルが教える変身学がレーナは好きだった。しかし、闇の魔術に対する防衛術だけは好きにはなれなかった。眠たくなる魔法史が何倍もマシだと思えるくらいに、教室内が臭かった。レーナは鼻をハンカチで押さえ、その授業を受けた。
一日の授業が終わり、今日の復習と予習を兼ねて勉強をしようと思ったレーナは図書館に向かった。

羽ペンを無心で動かすとカリカリと音がする。それを聞いていると何だか落ち着いてくる。レーナが教科書のページを捲ると同時に正面に人が座った。

「初日から勉強かい?」

聞き覚えのある声に反応して恐る恐る顔を確認するとそこにはまたもやセドリックが居た。

「…うん。あなたも?」
「いや、…レーナが居るのが見えたから、来ただけだよ」

その言葉に照れたレーナだったが、セドリックの顔を見ると平然としていたので自分が勘違いをしていたことに気づくと、無性に恥ずかしくなり文字を書くふりをして下を向いた。

「グリフィンドールは、楽しい?」
「うん。まだ…友達はできていないけど」

ハリーとロンとは仲良く喋ったが、それだけで友達と言えるのか分からなかったのでレーナはそう答えた。

「レーナだったら直ぐにできるよ」
「そうかしら…」
「うん。」
「…だったらいいけど」


―――暫く続く沈黙。それに耐え切れなくなったレーナは教科書や筆箱を引っ掴むとマダムピンズの怒鳴り声を無視し、全速力で図書館から抜け出した。

その日の夜、ベッドに横になりレーナが休んでいると、思い出したかのように勉強をしていたハーマイオニーが振り向いた。

「レーナ、あなた図書館は走ってはいけないのよ?」
「何で知ってるの?……でも、あれは仕方なかったの」
「まったくもう…」
「これからは気を付けるよ」

もぞもぞと布団を頭まで被ると、未だブツブツと文句を言うハーマイオニーを無視して目を瞑った。



金曜日。ここ数日で少しずつ仲良くなったハーマイオニーとレーナは大広間で朝食を取っていた。
シャキシャキと味気ないサラダを食べつつ時間割を確認する。

「今日は…魔法薬学があるみたい」
「確かスリザリンと合同だったはずよ。先生は――スネイプね」

嫌そうに言うハーマイオニーを疑問に思いつつ、レーナは残りのジュースを一気に飲み干した。
何百ものふくろうが大広間に飛び込んできた。先日レーナも家に手紙を出したので、そろそろ返事がくるだろうと思っていると一匹の黒いイヌワシが手紙を持ってきた。
それを受け取り、ベーコンを一切れやると、それはホゥ、と鳴き飛び立った。

「誰からなの?」
「多分…お父さんから」

わくわくしながら封を開ける。それはとても綺麗な字で書かれていた。

『親愛なるレーナへ
 無事、入学おめでとう。
 俺もレーナはグリフィンドールになるだろうと思っていたよ。
 自分らしく頑張るんだよ。また手紙まってる ルカ』

手紙を閉じるとレーナとハーマイオニーは魔法薬学の教室である地下牢へ向かった。


地下牢は暗く、そしてとても寒かった。壁に並べられたガラス瓶。その中にはアルコール漬けになった動物が入っていた。薄気味悪い部屋で授業が始まるのを待っていると、スリザリン生が近くの席に座った。レーナが教科書を捲っていると、一人のスリザリン生に話しかけられた。

「お前がレーナ・クルーガーか?」
「…うん。あなたは?」
「僕はドラコ・マルフォイ。僕の両親と君の母親は仲が良くてね」
「そうなの?」
「ああ。だから君もスリザリンだと思っていたんだけどね……残念だよ」

どうみても残念そうには思えない顔でドラコ・マルフォイは言った。二人の話を聞いていたロンが思い出したように叫んだ。

「あっ!!思い出したよ、君の家のこと。確か君のお母さんは、例のあの人の……」

ロンの話が聞こえたグリフィンドール生はギョッとした顔でレーナを見た。レーナは信じられないとでも言うような顔でロンを見た。

「……それ、本当?」

そう尋ねると、ロンではなくマルフォイが自慢げに答えた。

「そうさ!君は自分の母親について何も知らないみたいだね」

やっとレーナは、父が言っていたことを思い出した。何を言われても気にしてはいけない。そうだ、気にするな。それに二人の話からするとお父さんは違うみたいだし。

「…でも私はグリフィンドール生よ!」

そう啖呵を切ると、マルフォイは顔を歪めてまた何かを言い出した。しかしレーナがそれを全て無視すると席に戻っていった。



暫くすると、全身黒づくめの男、スネイプが入ってきた。
まず出席を取った。順番に名前を読んでいき、ハリーのところで止まった。

「ああ、さよう。ハリー・ポッター。我らが新しいスターだね」

クスクスとスリザリン生が笑う。レーナは父と話していたスネイプを思い出した。あの時はこんな人だとは思わなかった。少しガッカリしながら自分の名前が呼ばれるのを待った。


無事に名前を呼ばれ、無駄に長い演説が終わった。レーナはぐったりしながら羊皮紙と羽ペンを持ち出した。
すると突然スネイプが叫んだ。

「ポッター!……アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になる? 」

隣に座るハーマイオニーが真っ直ぐに手を上げた。
ハリーが分かりません、と答えるとスネイプはせせら笑いながら言った。

「チッ、チッ、チッ―――有名なだけではど うにもならんらしい」

ハーマイオニーは無視されてしまった。

「ではポッター、もう1つ聞こう。ベゾアー ル石を見付けてこいと言われたらどこを探すかね?」

またもやハーマイオニーがサッと手を上げた。自分の近くでマルフォイ達が身をよじって笑っているのが分かり、レーナは眉間に皺を寄せた。

「分かりません」
「クラスに来る前に教科書を開いて見よ うとは思わなかった訳だな、ポッター」

スネイプはまたもハーマイオニーのことを無視した。

「では最後の質問だ。ポッター、モンクスフードとウルフスベーンとの違いはなんだね?」

耐えかねたハーマイオニーが椅子から立ち上がり手を上げた。

「わかりません。ハーマイオニーがわかっていると思いますから、彼女に質問してみたらどうでしょう?」

数人の生徒が笑い声をあげた。

「座りたまえ」

スネイプはそうハーマイオニーに告げ、そしてレーナを見た。

「では…ミス・クルーガー、答えたまえ」

まさか自分が指名されると思ってもみなかったレーナは、どもりながらも頭の中から知っている知識を引っ張り出し答えた。

「ア、アスフォデルとニガヨモギを合わせると、眠り薬になります。強力な薬であるため、『生ける屍の水薬』と呼ばれています。ベゾアール石は山羊の胃から取り出す石で、たいていの薬に対する解毒剤になります。モンクスフードとウルフスベーンの違いは――これは同じ植物で、別名アコナイト 。トリカブトのこと、です」

そう答えるとスネイプは満足そうに頷いた。レーナが先ほどの回答が合っているのかヒヤヒヤしているも、スネイプがまたも言った。

「何故今のを全部ノートに取らんのだ!」

生徒がいっせいに羽ペンを走らせる。


「…忘れていた。ポッター、君の無礼な態度でグリフィンドールは五点減点だ」

こうして魔法薬学の授業が始まった。




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