「レーナ、もう行けるかい?」

息子達はもう家を出た。妻は……どこだ?いつまでたっても子供達に冷たい妻のことを思い出しながら、荷物の最終チェックをしていた彼女に問いかけた。そういえば、昨日の夜もチェックしていた気がする。

「うん」

そう頷いた彼女の目の下には薄っすらと隈があった。レーナはここのところ、ホグワーツに入学するという緊張からか余り寝れていなかったようだ。そんな可愛い娘を愛おしく思いながら黒いジャケットを羽織った。

「それじゃあ行こうか」
「……うん」

片手にレーナのトランクを持ち、もう片方の手で小さな手を握ると、珍しくきゅ、と握り返してきた。それに応えるように握り返し、家を出た。


キングス・クロス駅は相変わらずマグルでいっぱいだった。マグルが気になるのかレーナは終始そわそわと辺りを見渡していた。ゆっくりとトランクを乗せたカートを押し、9と10番線の間にむかう。


「お父さん、これ柵だよ」
「うん。これが9と3/4番線なんだよ」

信じられないとでも言うように大きな目を更に大きく開くレーナに早く行くように促す。

「レーナ、早く行かないとコンパートメントがいっぱいになってしまうよ」
「でも…」
「怖いかい?…お父さんを信じて。大丈夫だから」
「…うん」

カートを持たせ、背中を押すと勢い良く走り出した。消えた娘を確認し、自分も向かった。


一人で立ち尽くしていたレーナに声をかけると、安堵の表情を浮かべた。

「レーナ、困ったことがあったらセブルスに言うんだ。この前会った人、覚えているだろう?」
「…黒い人」
「そうだよ。あと、家のことについて色々言われると思うが気にしてはいけないよ」
「うん?」
「それから……可愛いレーナ、学校生活を楽しんでおいで」

屈んでふっくらとした頬にキスをした。

「手紙いっぱい書くね…」

笑顔で頷くと頬に温かい感触を感じた。驚き、レーナを見ると照れ笑いを浮かべていた。ぎゅっと抱きしめ、…そしてゆっくりと離れる。

「…行ってきます」

そう言うと、レーナは真っ赤な汽車に乗り込んだ。





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