教科書の他に本を何冊も買って貰ったレーナは随分と機嫌がよかった。スキップでもしそうな足取りにルカは自然と頬が緩んだ。

「レーナ、ペットはどうする?」
「ペットは…まだいいや」

そうして二人は家に帰ることにした。漏れ鍋に戻っている途中、全身黒づくめの男に合った。その人はルカの学生時代の友人らしく中々親しそうに話をしていた。

「セブルス、この子は俺の娘のレーナだ。可愛いだろう」
「……そのようですな」
「今年からホグワーツに通うんだ。よろしく頼む」

慌ててレーナはペコリとお辞儀をした。そんな彼女を見て、スネイプは小さな声で分かった、と答えた。

「この子は頭がいいからな。教えがいがあるぞ」

スネイプはこの親馬鹿目と思い、鼻で笑った。ルカは娘を馬鹿にされたと勘違いし顔を赤くして大声で反論していた。
いい加減恥ずかしくなったレーナは無理矢理ルカの話を止め、スネイプに謝った。

「娘のほうがお前より少しは頭はいいようだな」
「そりゃそうだ!」

いつまでたっても終わらなさそうなので、レーナはこっそりとその場を抜け出した。
少し小腹が空いていたレーナはアイスクリームパーラーに行くことにした。
程よく甘くて冷たいアイスを堪能したあと、偶々目に入ったクディッチ専門店を訪れた。
こんな所には今みたいに余程暇な時にしか来ないだろう。それぐらいレーナはクディッチに興味がなかった。店内に置かれてあるクディッチ用品をボーッと眺めていたところ、とん、と誰かにぶつかった。
レーナが体をよろめかすと、誰かの手が腰に回った。

「すみません」
「いや、構わないよ。僕も前を見てなかったからね」

どんな人にぶつかったのか確認するために顔をあげると、そこには黒髪に灰色の目をしたハンサムな青年がいた。

「ケガはないかい?」

家族以外の男性と余り接する機会がないため緊張のあまりコクコクと首を縦に振ることしかできなかった。

「ご家族の方は?」

置いて来たとは言えなかったレーナは咄嗟に嘘をついた。

「…はぐれてしまって」

嘘をついてしまった申し訳なさから俯いていると、青年はレーナの頭にそっと手を置いた。

「じゃあ、一緒に探そう」



「僕の名前はセドリック・ディゴリーだよ」
「レーナ・クルーガーです」
「もしかしてレーナは今年からホグワーツ?」
「…はい」
「僕もホグワーツだよ。因みに今年から三年生なんだ。何か合ったら何でも聞いてね」
「…はい」

せっかく話し掛けてくれるのに上手く返事ができずレーナは困っていた。

「あ、敬語じゃない方が嬉しいな」
「は…うん」
「良く出来ました」

頭をわしゃわしゃと撫でられ、レーナはあまりの恥ずかしさで死にそうになっていた。こんなことになるなら、お父さんの傍に我慢していたらよかった。今更遅い後悔をしつつ、セドリックの隣を歩いていると遠くの方から走ってくる人影が見えた。長めの髪を振り乱しながら迫ってくる父親を見て思わず体が強張ってしまっていた。

「レーナッ!」

ぎゅーっと痛い位に抱き締めてくる父にレーナはされるがままだった。
暫くそうしていると、我に返ったのかルカは傍に居たセドリックに気が付いた。

「…君がレーナを?」
「はい。迷子になっていたみたいなので」
「本当にありがとう」
「いえ。当然のことをしたまでです。じゃあまたホグワーツでね」

軽く手を振るとセドリックはどこかへ行ってしまった。後ろ姿を眺めている父にに頭を叩かれた。

「危ないだろう。勝手に何処かへ行ったら」
「…でもお父さんも悪いわ」
「それは、…すまない。だが、これからは言ってから行くんだぞ」

いつになく真剣な目をしている父に頷いて、二人は手を繋ぎ家に帰った。



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