カーテンの隙間から差し込む光により、レーナは目を覚ました。ぐしぐしと目元を擦りながらリビングに行けば、そこには両親と二人の兄がいた。挨拶もそこそこに椅子に座り机の上にある朝食を食べ始める。

「レーナ、ご飯を食べ終えたらダイアゴン横丁に行くぞ」
「…誰と?」
「勿論、俺とレーナの二人だ」

父ーールカは嬉々とした表情で答えた。ちらりと横目で兄達を見ると、彼等は呆れた顔でルカを見ていた。

「俺達も行けるなら着いて行きたいんだが…」
「父さんがどうしても二人で行きたいって煩いんだよ」

お母さん、と絶望したような表情で見てくるレーナに母レベッカは面倒くさそうに言い捨てた。

「私は行かないわ。二人で行きなさい」

何て冷たい母親だとレーナは思った。この人はずっとそうだ。高熱がでた時も大怪我をした時も助けるようなことはしなかった。自分でどうにかなさい、とでも言う様な目で見てくるのだ。そんなレベッカがレーナは苦手だったし怖くもあった。
しかし、他の家族は違った。父は過保護過ぎる部分もあるが優しいし、兄達も同じく優しかった。

「……はい」
「じゃあ、さっさと食べなさいよ」

母の視線から逃れるようにレーナは机の上のパンを口いっぱいに頬張った。


暖炉の前に立ち、フルパウダーを放つ。先に言ってしまった父親を追いかけるようにレーナも言った。

「ダイアゴン横丁」


無事に漏れ鍋に到着し、父と合流すると二人はそこを出た。
リストを片手にぶつぶつ呟く父を尻目にレーナは小さく息をついた。

「制服買ってくるからお父さんは教科書を買って来て」
「……一緒に行かないと本は買えないぞ」

それでもいいのか?と目で訴えてくる父にまたもやため息をついた。

「じゃあ早く行こうよ」
「そうだな。…何処から行くのがいいのやら」
「一番近いところからでいいでしょ」

グイグイと父の腕を引っ張ると、何の勘違いをしたのか腕を組んできた。機嫌よさげに鼻歌を唄っている父にレーナは顔から火がでるほど恥ずかしくなった。

マダムマルキンの洋服店で制服を買い、次にオリバンダーの店へ杖を買いに二人は向かった。店は狭く、少々汚そうに見えた。扉には紀元前三八二年創業と書かれており、それを見たレーナはギョッとした。

「確かに紀元前というのは、にわかには信じ難いな。…すまないがレーナ、ここは一人で行ってくれないか?用事ができた」

レーナは父に向かってうなずいた。
そっと扉を開けるとベルが鳴った。店内には沢山の杖が入っていると思われる箱が積み重なっていた。物珍し気にキョロキョロと見渡していると、老人がでてきた。

「いらっしゃいませ」
「杖を買いにきました…」
「名前と杖腕は?」
「レーナ・クルーガー。杖腕は右です」
「おお、君のご両親の事はよーく覚えておるよ」

オリバンダーは巻き尺を取り出し、腕の長さや頭周りなど、いろいろなところを測りだした。そして計測が終わると、一つの杖を持ってきた。

「これは楓の木に不死鳥の尾羽。二十八センチ。良質でしなやか」

杖を受け取り軽く振ると、杖の先から淡い光の玉がいくつも生まれた。

「素晴らしい!この杖はお嬢さんにピッタリだ」

想像以上に高い金額を払い、店を出ると父が壁に持たれて立っていた。

「じゃあ、次は教科書だな」




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