キングスクロス駅から家に着くと、久しぶりに母親が居た。リビングで分厚い本を読んでいたレベッカはレーナをチラリと見ると小さくおかえり、と呟いた。そんな事を言われるのが久しぶりだったため、何だかむず痒かった。 「ただいま、お母さん」 レーナが照れ臭そうにそう言うや否や、レベッカは下を向いた。 その日は、珍しく家族全員の揃った食事だった。程よく話をしながら、久々の母の手料理を平らげていく。レベッカは英国人だったが、ルカがドイツ人のため、料理はドイツのものを作っていた。こんがりと焼け目のついた仔豚の丸焼き、長いソーセージに生ハムのマリネ。レーナはライ麦パンを一切れ取り、チーズや生ハムを載せると口を大きく開けて一口で食べた。 「品が無いわ。やめて頂戴」 ゲテモノを見るかのような目で見てくる母に返事をしようとするが、口の中がいっぱいでモゴモゴとしか言えない。急いでグラスの水を飲む。 「…ごめんなさい」 「まったく。気を付けなさいよ」 「まあまあ、いいじゃないか。ところでお前たち、成績はどうだったんだ?」 話題を変えてくれた父に感謝をしていると、兄のノアがふふんと鼻を鳴らした。 「どうだったと思う?」 ニコニコしながらそう言うので、各々が予想を上げていく。ルカは一桁代、レベッカは10番代、ロビンは5番以内だと予想した。 「レーナの予想は?」 「…じゃあ、主席とか?」 それは無いとでも言うかのようにルカとロビンが吹き出す。レベッカも思わず小さく笑っていた。そんな家族にノアは顔を真っ赤にして答えた。 「なにその反応!僕、主席なんだけど」 その答えに食卓は静まり返った。シンとする中、ノアに確認する。 「…本当なの?」 「ああ、勿論さ」 大袈裟なウインクをしてくるノアに、レーナはおめでとうと言った。未だ静かな家族を無視してノアは頭を撫でてくる。 「レーナだけだよ。信じてくれるのは」 ポツリと溢れたその声をキッカケに、またも食卓がドッと湧いた。バシバシと背中を叩いているルカを鬱陶しそうに扱うが、その顔は嬉しそうだった。 食事が終わり、ソファに腰掛ける。レベッカは片付けをし、ノアとロビンはクィディッチ論議をしていた。二人の話を聞いていると、隣にルカが座った。 「レーナはどうだったんだ?」 ルカがそう聞くと同時に二人も論議をやめて、こちらを向いた。 「……次席」 三人の視線から逃れるように明後日の方向を見て呟く。もしかしたら怒られるかな、そんな思いに駆られながら三人の返事を待つ。 「……凄いじゃねえか!」 「僕なんて一年の頃はビリから数えた方が早かったよ」 「よく頑張ったな」 こんなに褒められるとは思わなかった。照れながら笑うと、片付けを終えたレベッカもやってきた。 「聞いてくれレベッカ、レーナが次席だったんだ」 「……へえ。じゃあ何か買ってあげなさいよ」 「偶にはお前が祝ってやれよ」 両親の会話に耳を傾ける。父の説得に折れたらしいレベッカが言った。 「今年はダイアゴン横丁に一緒に行くからその時に何か買ってあげるわ」 「…ありがとう」 レベッカはレーナの頭に手を置いた。何事かと思い顔をあげるようとした時、手がくシャリと頭を撫でた。おめでとう、そう言うとレベッカは頷いた。 もしかしたらこれは夢なのかもしれない。あの母が祝ってくれるなんて。ベッドの中で思わず頬を抓るが、痛かった。 次の日、目を覚ますと彼女の姿は家になかった。やっぱり夢だったのかもしれない。 |