ハッフルパフ戦の試合の当日、大広間のグリフィンドールのテーブルはいつも以上に騒がしかった。

オリバーにもっと食べろと急かされているハリーは試合前なのに少し疲れているように見えた。ハーマイオニーの隣に座ってそんな様子を見ていると、双子の片割れが正面に座った。

「おはよう、レーナ」
「あ、おはよう…あなたはジョージ?」
「正解だ!どうして分かったんだい?」
「もう一人の人とは話した事ないもの」

なるほど、と納得したらしいジョージはオリバーとハリーのやりとりを見ては爆笑していた。

選手たちが席を立ち、ジョージもそれに従った。
レーナはジョージに頑張って、と声を掛けた。それに応えるようにレーナの頭をもみくちゃにすると、彼は片割れと大広間を出て行った。


レーナはハーマイオニーやロンと共にハリーの応援に行っていた。
グリフィンドールには勝ってほしいけど、セドリックにも頑張ってほしい。そんな複雑な心境でグラウンドを見つめる。
全身真っ黒なスネイプが現れ、笛を鳴らした。――プレイボールだ。


スネイプがハッフルパフにペナルティーシュートを与えるなど、不公平な試合が行われている中、ハリーが物凄いスピードで急降下した。

「おおっと!グリフィンドール、スニッチを見つけたか!?」

実況のリーがそう叫ぶ。レーナも必死にハリーを目で追う。グングン下り、そして急に止まった。ハリーは右手を空に高々とあげた。

「ポッター選手、見事な急降下でした! グリフィンドール、新記録の速さで勝利です!!」

歓喜に揺れるグリフィンドールのスタンド。隣に居るハーマイオニーもロンも、皆が大喜びしている。
そんな中レーナは肩を落としてグラウンドから出ていく彼の姿を眉を寄せて見つめていた。




グリフィンドールの談話室はお祭り騒ぎだった。
レーナも同じくアンジェリーナやアリシア達と喜びを分かち合っていた。しかし、居ても立ってもいられなくなり、談話室からこっそり抜け出した。

探すのはただ一人、セドリックだ。彼の事だからきっと負けたことを自分の責任だと感じているのだろう。図書館や中庭、天文台などを探したが何処にもいない。そうして歩いているうちに、レーナはふと思った。
自分はセドリックに会って何をする気なのだろうか。慰めれるのだろうか、この自分に。負けたのは運が悪かった、ハリーが凄すぎたとか、次があるとか。こんな陳腐な言葉しか思いつかばない。こんなのじゃ気休め程度にもならないだろう。レーナは足を止めると、踵を返し寮に帰ることにした。
――次の日、セドリックは図書館に来なかった。


セドリックが図書館に来たのはグリフィンドール戦から三日後だった。少し目の下に隈ができているように見える彼は痛々しく笑った。

「中々来れなくてごめんね」
「そんなこと、気にしないでいいのに」

いつものように勉強するが、二人の間にはいつもと違って沈黙が走っていた。不意に、セドリックが持っていた羽ペンを置いた。

「あり得ないよね。新記録だよ、開始してから五分で負けるなんて」
「……」
「君も来てたし、もっとカッコイイところ見せたかったのに」
「……」
「ほんと、自分が情けないよ」

ぼんやりと窓の外を見つめるセドリックに何と声を掛ければ一番いいのか分からなかった。
レーナは教科書や筆箱を持つと、セドリックに向かい合った。

「来年の試合で、あなたのカッコイイ姿を観るのを楽しみにしておくわ」

それだけ言うと、レーナは寮に戻って行った。




そして数週間が経った。相変わらず、ハリー達は忙しそうにしていた。自分に隠して何をしているのだろうか。聞こうにも聞けず、レーナは寂しく思いながらも毎日過ごしていた。

ハーマイオニーと広間で朝食を取っていると、ハリーとやけに右手を腫らしたロンが現れた。

「その腕どうしたの?」
「えっと、その…」

しどろもどろになっているロンを見てハーマイオニーは言った。

「レーナにも言うべきよ。一人だけ何も知らないなんて、可笑しいわ」
「そうだね…」

四人はテーブルの隅に集まると、小声で話し始めた。
そこでレーナは今までの三人の不審な行動の理由や、ロンの腕の事情を知った。

「…そんな事があったのね」
「黙っていてごめんなさい。でも誤解しないで。嫌いになったとかそんなのじゃないの。只、言い出せなかっただけなの」
「うん。分かってるよ」

ハーマイオニーが目を潤ませながら訴えてくる。レーナは彼女の頭を撫でながらロンに言った。

「バレたくないのは分かるけど、早く医務室に行くべきよ。それヤバイと思うわ」


レーナが言った通り、ロンの腕は緑色に変色していた。当然、バレるバレない等とは言ってられなくなり、ロンはマダム・ポンフリーの元へ行った。




数日が経ち、ドラゴンをロンの兄の知り合いに引き渡す日になった。レーナも手伝うつもりでいたが、先生に呼ばれていたためそれは無理だった。
翌朝、 目を覚ましたレーナが見たのは目を腫らしたハーマイオニーの姿だった。

「何かあったの?」
「マクゴナガル先生にバレてしまったの。わ、私きっと幻滅されてしまったわ」

レーナの胸に縋り付くようにして泣くハーマイオニーをそっと抱きしめる。

「大丈夫よ。たった一回位で幻滅したりしないわ」

落ち着かせるように一定のリズムで背中を叩く。

「で、でも…一人五十点よ!私達のせいでグリフィンドールから百五十点も引かれるのよ!もう私どうしたらいいのか……」

何となく、昨晩何があったのか悟ったレーナは、自分も行っておくべきだったかと後悔した。

一晩でグリフィンドールから百五十点も減点された事は、すぐさま生徒たちに広まった。どこから流れてきたのか、減点された生徒の名前までも広がっていた。そのせいでハリーとハーマイオニーとネビルはグリフィンドール生だけでなく、レイ ブンクローとハッフルパフの生徒たちにまで睨まれる事が多くなった。



「気にしないほうがいいわ」

レーナは朝食の席で、三人に向けて言った。それでも不安なのか、捨てられた子犬のような瞳で自分を見つめてくる三人に小さくため息をついた。




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