無事にホグワーツ特急はキングスクロス駅に着いた。辺りを見渡し父、ルカを探していると、マグルに紛れ壁に凭れ掛かっているその姿を発見した。

「父さん!」

そう叫び、手を振りながら走り寄る。

「ただいま」

そう言って抱きついたとレーナを彼はしっかりと両腕に閉じ込めた。
スーッと深呼吸をすれば胸いっぱいにルカの嗅ぎなれた甘い香りのフレグランスが広がった。とても安心する匂いだ。レーナがそれに浸っていると、ルカは一度抱きしめるのを止めた。

「おかえり、レーナ」

ちゅっと頬にキスをされると再び抱き締められた。いつもなら気恥ずかしくて抵抗をするのだが、今日はそれがとても心地よかった。
衝撃的な事実を知ってしまったけれど、やはり自分はこの家族が大好きだと、父の両腕の間でレーナはそう感じていた。


イギリスから遠く離れたドイツのローテンブルクにある山の一角に建てられた家に着いた。家と言うより、小さな城塞と言うほうがしっくりくるそれは、屋根のみが黒く、他の部分はクリーム色で統一されている。雪が積もり、白くコーティングされたそれは、まさしくシンデレラ城のように美しい。門をくぐり抜け、扉の前に立つ。父が呪文を呟くと重たそうなそれは音をたてながら開いた。



レーナは一旦荷物を置きに自室へと戻った。久しぶりに訪れたそこは、相変わらず無駄に広かった。白い壁に木製の家具がある暖かみのある部屋になってある。ブラウンのソファに座り、赤いクッションを抱き枕のように抱く。リビングに居るであろう、まだ会っていない母の姿を思い出す。レーナはどんな顔をして会えばいいのか分からなかった。他人からすると、ヴォルデモートの手先である碌でもない女だろう。しかしレーナからするとこの世にたった一人しかいない血の繋がった母なのだ。
ごちゃごちゃ考えても仕方あるまい。レーナはそう割り切ると、自室を出た。



予想に反して、母は居なかった。父によると、どこかへ“おでかけ”していて暫く返ってこないらしい。レーナは母が居ない今だ、と思い父に尋ねた。

「父さん、…母さんってさ、あの…」
「何となく言いたいことは分かるよ。ホグワーツで知ったんだろう?母さんのことを」
「うん。…例のあの人側についてるって」
「そうだね、合ってるよ」

色々と知りたいことはあるだろうけど、レーナはまだ小さいからね。もう少し大きくなったら話すよ。そろそろノアがダームストラングから帰って来るだろうからお出迎えしてあげなさい。
父はそう言うと、コーヒーに角砂糖を二ついれた。

そろそろと歩いて扉に向かっていると、それが開いた。

「…ただいまレーナ」
「おかえり、兄さん」

優しくハグをされる。成長期だからなのか、また背が高くなっている気がする。羨ましさからジト目で見つめるが、いささか鈍感な兄は何のことが分かっていない様子だった。




「起きろよ、レーナ」

レーナを起こしたのは、一番上の兄であるロビンだった。相変わらずお洒落だ。短めの前髪を立たせ、耳にはシルバーのピアス、新しく開けたのか、口元にもピアスがある。痛くなかったのだろうか。そんな疑問を抱いてしまうのは仕方ないはず。

「おはよう、兄さん」


その日は兄達と久しぶりに箒に乗ったり、勉強を教えてもらったりと充実した日になった。

そして、クリスマスとなった。当然のように母は居なかった。朝食を食べ終わると、レーナは早速プレゼントをあけた。

ハーマイオニーからは数冊の本とマグルのティーン向け雑誌だった。メリークリスマス!と書かれた手紙も付いていた。レーナはハーマイオニーにバームクーヘンやシュトレンなどのドイツのお菓子の詰め合わせを送った。レーナはハーマイオニーにプレゼントを貰え、嬉しかった。
他にロンからはお菓子の詰め合わせ、ハリーからはクリスマスカラーの手紙が届いた。それ以外ではアンジェリーナやアリシア、オリバーや双子の片割れのジョージからもプレゼントが来ていた。一番驚いたのは、スネイプからのプレゼントがあったことだ。魔法薬学についての本だったが、とても嬉しかった。こんなに貰えるなんて思ってもみなかったレーナは舞い上がっていた。
最後の一つのプレゼントを開ける。中にはバレッタが入っていた。淡いパステルピンクで大きなリボンが付いている。たまにはこういうのも良いかもしれない。あまり女の子らしい物は付けない質なのだが、レーナはそう思った。このセンスの良い人は誰なんだろう。差出人を確認する。――そこには、セドリック・ディゴリーと書かれていた。やはりか、レーナは想像通りだったその結果にそう思ってしまった。


「レーナ、俺からもあるぞ」

ほらよ、と小さな箱を渡される。そっと開くとその中には、紫と淡いピンクのバイカラーのピアスがあった。

「きれい…」
「だろう?レーナに似合うと思ってさ」
「でも、穴がないからつけれないわ」
「ん?今から開けるから大丈夫」

何を言っているのだろう。レーナはロビンの言っている意味が分からなかった。そんなことを急に言われてはいそうですかと言えるわけがない。
レーナがそんなことを考えているうちに、ロビンは何処からかピアッサーを取り出した。

「右耳だして」

さも当然のように口にする。レーナはそんな兄に諦めてはいたが、一つだけ心配なことがあった。

「…痛くない?」
「ぜんっぜん痛くないね」

半信半疑で髪を耳にかける。露わになった耳朶に冷たい指先が触れた。ふにふにと揉まれ
ると、カチャリとピアッサーがセットされた。

「大丈夫だからな。いくぞ…」




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